交通事故 23 後遺障害① 自賠責が認めなかった後遺障害を認めた裁判例
1 新しい後遺障害
高次脳機能障害は、比較的新しい後遺障害として認識されている。
それまでは、交通事故で外傷(とくに頭部外傷)を負って職場に復帰したものの、仕事が思ったようにできない、ミスが多い等の現象が生じた場合、それが高次脳機能障害によるものだとしても、本人も回りもそれが異常だとは容易には気が付き難く、また、その後その者が人格異常を来した場合でも、それが交通事故によるものだとの認識に至るには、類似の事例の山積を待つ必要があり、最近までこれが見過ごされてきたとのことである。
とこころが、現在は、類似の症例の山積もあり、高次能機能障害が交通事故による後遺障害であるとの認識に至っており、自賠責での後遺障害の認定機関である損害保険料率算出機構では、平成13年1月より脳外傷による高次脳機能障害の残存を疑わせる事案を特定事案として、専門医による審査体制として「高次脳機能障害専門部会」を設置するまでになっている。しかし、この後遺障害発症の機序など未解明の部分も多く、被害者にとっては、十分な救済は受け得ているとはいえない現状にある。
2 高次脳機能障害を疑わせる症状
⑴ 知的障害(認知症外)
物忘れや記憶が出来ないという記憶・記銘力障害、判断力が低下して計画的な行動が出来ないという遂行機能障害、自分の病変が理解できないという病識欠落などがある。
⑵ 性格・人格変化(情緒障害)
はやい話、人格が変わったという印象を他の者に与えるような言動(大声を出す。暴力を振るう。被害妄想に陥る。羞恥心をなくする等)をするようになる。
等である
高次脳機能障害を後遺すると、人生そのものを喪失してしまうほど甚大な被害を、本人も家族も受けることになる。
3 等級該当性
自賠責保険が、「脳外傷による高次脳機能障害の等級認定にあたっての基本的な考え方」を公表している。これによると、高次脳機能障害は、等級表別表第1の1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」、同2級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」、別表第2の3級3号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」、同5級2号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」、同7級4号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」、同9級10号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」の6段階で認定するものとしている。なお、高次脳機能障害の考え方や自賠責保険の運用については、「自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会」から報告書(最新のものは平成23年3月4日)が公表されており、インターネットで閲覧・謄写が可能である。
4 最終的には裁判で
通常の後遺障害の場合でも、自賠責が認めないものを裁判所が認めた裁判例は多数に及んでおり、ましてや、高次脳機能障害の認定については、医学的に解明できていない部分も多いので、その存否や等級に関する認定は、裁判で争いになることが多くなると言われている。