交通事故 43 遅延損害金
1 症状固定日は、法的判断
交通事故に遭い、怪我をして、休業するに至った場合で、後遺症が生じたときは、症状固定日の前までの休業に対しては休業損害金が支払われ、症状固定日以後の休業に対しては逸失利益が支払われるが、昨日のコラムで書いたように、その場合、休業損害金は高く、逸失利益は低くなるので、症状固定日の認定が遅ければ遅い方が、損害の認定額は大きくなる。
このことから分かるように、症状固定日の認定は、ある時点の休業を、休業損害金の対象にするか、逸失利益の対象にするかという価値判断の伴う、法的な判断である。
2 実務上は、医師の判断で決まってくる。
症状固定日をいつにするか、という問題は、前述のように法的な判断事項であり、訴訟になったときは、裁判所の専権に属するものであるが、訴訟実務上は、医師が「後遺障害診断書」に書いた症状固定日をもって、症状固定日としているのが実情である。これは、被害者の代理人である弁護士も、それにさしたる疑問を持たず、医師が「後遺障害診断書」に書いた症状固定日をもって、症状固定日とするのを当然視しているからであると思われる。また、訴訟外での示談の場でも、医師が「後遺障害診断書」に書いた症状固定日をもって、症状固定日としていつのが実情である。
3 医師の判断には裁量の幅がある
症状固定とは、「相当の治療期間を経て、これ以上治療をしても治療効果が認められない段階になった時」であるが、医師が症状固定日をいつと定め「後遺障害診断書」にそれを書くかについては、明確な基準があるわけではなく、その裁量の幅は大きいものがある。
医師が、被害者のためを思い、熱心に治療を続け、なお治療を続ける必要があると考えたときは、まだ症状固定とは言えないが、医師によっては、他の医師ならまだ症状が固定したと考えない時点を症状固定日とすることも、当然にありうることである。
4 保険会社からの働きかけ
実務上、ときに、保険会社の従業員が、被害者が治療を受けている病院に対し、治療の打ち切り(むち打ち症について多い)や、後遺症の症状固定日の早期確定を促している場面に遭遇することがある。
保険会社のその促しに対しては、医師も、前述のように、いつを症状固定日とするかについては、裁量権をもっているが故に、保険会社から、治療の打ち切りが通告され、それ以後の治療費は保険会社では支払わないと言われると、それが圧力になり、症状固定日が早まる可能性が大いにある。
5 弁護士としてすべきこと
弁護士、特に被害者の代理人になった弁護士は、真に交通事故で被害に遭った被害者のため、十二分に治療を受けさせる環境を維持できるよう腐心すべきである。そのためには、被害者から詳しく症状などを聞き出し、ある程度の交通事故による外傷その他の障害の知識をも持ち、担当医に会って、診療その他について質問をする等をすべきであろう。