交通事故 21 逸失利益⑫ 定期金賠償は認められるか?
1 休業損害金の計算式
事業所得者は、事業収入-原価・経費=事業所得
を前提に、休業損害金を計算する。
これらの金額は、事故前の一定期間(多くの場合、前年の所得税の確定申告資料によるので1年間)の実績数値の平均値になる。なお、税金は控除しなくともよいことは休業損害金①で解説済み
2 休業期間
これは休業した全期間が原則だが、一定期間の休業損害金を所得の100%、その期間経過後はその一定割合とする裁判例も散見される。後遺症の症状が固定した後は、休業損害金は認められず、逸失利益の一部とされる。ただし、事案によっては、症状が固定した日以後の分を含めて、就職の遅れによる損害を、大学卒業まで認めた裁判例(休業損害金①を参照)もある。
3 過少申告の場合
実際の事業収入は確定申告による金額より多い(過少申告)という場合、それが証明できれば、それによる。東地判平15.12.1・横浜地判平20.9.4など。
経費の過大計上による場合でも、実際にかかった経費が確定申告額よる少ないという場合も同じである。
無申告や赤字申告の場合も同じである。
しかしながら、確定申告額より多い事業所得があったという場合、その証明はかなり高度なものが要求される。「何人をも納得させるに足る高度の証明を要する」と判示する判決(東地判昭62.6.19)もある。確定申告より多かったことは認められるが、その金額が把握できないという場合、賃金センサスの平均賃金又はその一定割合を基礎に休業損害金を認める裁判例が多い。
クラブホステスの事業所得が多いとして主張立証をしても、十分ではないとされ、賃金センサスの平均賃金を基礎に休業損害金を算出された東地判平6.12.9や、赤字申告者で、賃金センサスの平均賃金の2/3をもって休業損害金とした名古屋地判平4.7.29などがある。
3 開業準備段階の場合
男子労働者学歴計年齢別平均賃金によった裁判例(横浜地判平5.3.29)がある。
4 経費
⑴ 固定経費は控除しない
売上額から原価と経費を引いて事業所得を計算するが、経費のうち、固定経費は、休業中でも必要になる経費なので、控除しなくともよい。
5 売上高利益率
信頼できる統計資料から、売上額を基準にこれに利益率をかけて事業所得を計算する方法もあるとされている。
6 夫婦で自営業を営んでいる場合
衣料品の卸業で、利益の7割(3割は妻の利益分)とした裁判例(大阪地判平5.4.8)などがある。なお、妻を事業専従者として申告しているケースで、申告所得額に事業専従給与額を加えた金額を事故前の事業所得として休業損害金を算出した裁判例(大阪地判平5.1.12)がある。妻もこの事業所得の確保に寄与している場合は、妻の寄与分は控除されることになろう。
7 代替労働力の確保のために支出した金額も休業損害金に加算
臨時で人を雇い、事業の手伝いをしてもらった場合の人件費などである。