相続税のお話し 7 代償分割に潜む落とし穴
Q 私が読んだ本には、預貯金は、遺産分割をしなくとも、法定相続分の割合なら、直接金融機関から支払ってもらえると書いているものと、全相続人の判が揃わないと金融機関が支払ってくれないと書いているのを見ましたが、どちらが正しいのですか?
A
判例(最判昭29.4.8)によれば、預金債権など、計算上分割が可能な債権(「可分債権」という)は、相続人ごとに分割されて相続していますので、相続人は、単独で、金融機関に対し、その払い戻しの請求ができます。
つまり、預貯金は、法的には、遺産分割をする必要はなく、直接、金融機関に対し払い戻しの請求が出来るのです。
しかしながら、現実には、多くの銀行が、まだ、相続人全員の同意がないと預金の払い戻し請求には応じないという運用をしています。
これは判例に違反した扱いで、明らかに違法です。東地判平18.7.14は、その点を明確に指摘しています。
なお、最近は、銀行も、徐々に、相続人の1人からするその相続人の法定相続分については、預金の払い戻し請求に応ずるようになってきています。
なお、私の事務所では、何回か、金融機関に対し訴訟を起こして、預貯金について遅延損害金までつけてもらって、相続人の相続分相当額を支払ってもらった経験があり、それ以後は、訴訟を起こさなくとも、支払ってもらうようになりました。
なお、定額郵便貯金は、郵便貯金法7条1項3号で、預入の日から起算して10年が経過するまでは分割が禁止されていますので可分債権ではありません。これについては遺産分割の対象になります。したがって、預入の日から起算して10年が経過するまでの定額郵便貯金は、相続人全員の判が揃わないと、払い戻しの請求は出来ません。
また、定期預金は、一部の相続人からの中途解約は認められませんので、遺産分割の対象財産になります(東地判平8.11.8)。したがって、定期預金も、相続人全員の判が揃わないと、払い戻しの請求は出来ません。