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不動産 10 事故(自殺)物件

菊池捷男

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テーマ:不動産

1自殺という履歴は瑕疵
建物内で自殺があった場合、その建物は瑕疵があるということになっています(横浜地裁平成1.9.7判決)。ですから買主は、売主に瑕疵担保責任を追求することができますが、売主に注意義務違反があるときは、不法行為にもあたりますので、買主は売主に対し不法行為に基づく損害賠償の請求もできます。

2不法行為における注意義務違反
東京地裁平成18.7.27判決は、
競売物件を購入してこれを転売することを事業目的としている不動産会社甲社が、競売事件で買い受けた物件内に自殺があったことに気が付かず、これを乙社に転売したことにより乙社に損害を与えたとして、甲社に損害賠償義務を認めた判決です。
⑴ 注意義務違反
競売物件は、通常、
①執行官が作成する現況調査報告書
②評価人である不動産鑑定士が作成する評価書
③裁判所書記官が作成する物件明細書(この3つの書類のことを実務では「三点セット」とよんだりしています。)
を見て、現況や権利関係を知ることができるのですが、
この事件では、現況調査報告書に、その家の妻が自殺したことが書かれ、
さらに、評価書には、「事故(自殺)物件である。」との記載をした上で、「評価額の判定」欄には「事故物件等により市場性修正率として50%を控除した。」との記載までなされていたのですが、競売でこの別件を買い受けた甲社はこれに気が付かず、購入後転売したことで注意義務違反があったとされました。

3仲介業者には責任はない
この件は、競売で不動産を買い受けた甲社が乙社に転売するとき、仲介会社が介在したのですが、仲介業者にまで、競売物件の三点セットの調査義務はないとされ、不法行為にはならないとされました。

4自殺者がいた場合の損害額の評価
⑴ 悲惨な自殺事件。
鑑定評価は、市場性修正率を50%としたが、判決は、自殺した場所となった建物は取り壊わされる予定であったことを理由に25%減の評価とした事例
前記東京地裁平成18.7.27判決は、父親に殺害された子の妻が、それを知った直後建物内で自殺した事件ですが、土地建物の転買人乙社は、建物を壊して土地の上に新築建物を建て、これを他に売却するつもりで買ったものでした。
判決は、もし乙社が、自殺があったことを知っていたら、もっと安く本件物件を買うことが出来たと認定し、前記評価書による市場修正率が建物を取り壊さない場合の市場修正率であることを参考にして、建物を取り壊しその後で建物を新築する予定で購入したこの件の損害額は、購入価格の25%になると認定しました。

⑵ 慰謝料の名目で2500万円(売買価格の11.4%相当)の損害賠償を認めた事例
東京地裁平成20.4.28判決は、マンション1棟を購入したが、その後それより約2年前に飛び降り自殺があったことを知った買主からの損害賠償請求事件ですが、自殺による財産的損害の立証の困難さから、民事訴訟法248条の「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。」との規定により、慰謝料として上記の金額を認めました。

⑶ 自殺による影響は軽微だとして、購入した不動産の1%を損害と認定した事例
東京地裁平成21.6.26判決は、賃貸用のマンションを購入した買主が、その後その建物で自殺をした者がいることを知り、損害賠償の請求をした事例ですが、判決は、自殺者は、建物内で睡眠薬の服毒自殺を図ったが、病院に搬送され、そのときから2週間後に病院で死亡したものであること、判決時が自殺から5年以上経過していること、その建物を新たに賃貸する場合、自殺の履歴が借受け希望者に当然に告知しなければならないような重要な事項ではないと考えられることを理由に、損害額を購入価格の1%と認定しました。

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