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間違えやすい法令用語 21 善意と悪意

菊池捷男

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テーマ:法令用語

1 一般的な意味
善意とは「善良の心、他人のためを思う心、好意」などを意味し、
悪意とは「人を憎み害を加えようとする邪悪な心」を意味しますが、
法律用語としての意味は違います。

2 「善意」の法律上の意味
「善意」とは「知らないこと」です。

例:債権譲渡について
⑴ 民法466条1項本文は「債権は、譲り渡すことができる。」と定めています。この規定により、①通常の債権は、債権譲渡契約を結ぶと、有効に債権が譲受人に移転することになります。
⑵ ところが、民法466条2項は「前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。」と定めていますので、②当事者が「債権譲渡禁止の特約」を結んでいると、債権譲渡は無効になり、債権の移転はできないことになります。
⑶ しかしながら、この2項にはただし書きがつけられており、「ただし、その意思表示(筆者注:債権譲渡禁止の特約の意味)は、善意の第三者に対抗することができない。」と定めていますので、債権の譲受人が、債権譲渡禁止の特約を結んだ債権を、それと知らないで、譲り受けると、有効になるのです。

この場合の「善意」は、「債権者と債務者間で債権譲渡禁止の特約を結んでいたことを知らなかった」ことを意味します。

3 「知らなかった」場合でも、「重大な過失によって知らなかった」ときは、善意とは見られないことがある
最高裁昭和48.7.19判決は、債権譲渡禁止特約が結ばれていることを知らなかった譲受人であっても、「知らなかったことについて重大な過失」があるときは、債権を譲り受けることはできない、と判示していますので、知らなかったことについて重大な過失があるときは「善意」とみられない場合があるのです。

3 「悪意」の法律上の意味
一般には、「悪意」とは「知っていたこと」を意味します。

例:不当利得返還義務の範囲
民法703条は「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。」と定めていますが、これは、法律上利益を受ける権利がないのに、他人の財産や労務のおかげで利益を受けた者(受益者)は、その利益が存する限度でよいから、それを返しなさいという規定です。

しかし、法律上利益を受ける権利がないことを「知っている」受益者まで、返還義務の範囲を「利益の存する限度」とするのは、公平ではありません。
そこで、民法704条は「悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。」と規定しています。
この場合の「悪意」とは、受益者が「法律上利益を受ける権利がないのに、他人の財産や労務のおかげで利益を受けたことを知っていること」を意味します。

4 離婚原因としての「悪意の遺棄」でいう「悪意」は「害意」を意味する

民法777条は、「夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

と規定していますが、離婚原因の二号の「悪意の遺棄」とは、「積極的な意思で夫婦の共同生活を行わないこと」と解されています。たんに共同生活を行わないだけでは悪意の遺棄にはなりません。

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