遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 土地の調査方法
⑴ 固定資産税の納税通知書
土地は、まずは、固定資産税の納税通知書で調べるべきです。
固定資産税の納税通知書には
①それを発行した市区町村に所有している不動産のすべてが書かれています。
②すべての市区町村が所有者へ郵送していますので、日本全国にある不動産が把握できます。
③そこに記載されている「現況地目」は比較的実態に即していると言えますので、登記簿の「地目」を見るよりは正確な利用状況の把握が可能です。
④ただ、固定資産税の納税通知書は、その年の1月1日現在の登記情報に基づいて記載されていますので、1月1日以降に権利の変動があった場合は、そのことは把握できません。これは登記事項証明書で把握しなければなりません。
⑤また、土地が共有の場合は、固定資産税の納税通知書には持分の表示はなされていませんので、これについても登記事項証明書で把握しなければなりません。
⑵ 固定資産評価証明書、登記簿謄本
市区町村に備え付けられた名寄帳(固定資産税課税台帳)に基づいて作成される固定資産評価証明書
⑶ 法務局に備え付けられた登記簿に基づき発行される登記事項証明書(登記簿謄本)
⑷ 住宅地図、ブルーマップ、航空写真、現地の写真など
ブルーマップとは、登記所備え付けの「地図」あるいは「地図に準ずる図面(いわゆる「公図」)をゼンリンの住宅地図の上に重ねて作成した図面のことを言います。これにより土地の住居表示から土地の地番を探すことができるのです。
2 土地の特定
土地の記載が不正確な場合は、登記が出来ない場合があります。
相続が開始し、遺言の執行や遺産分割などの手続により、土地を特定の相続人又は受遺者の名義にする際、土地の特定ができていない場合は、法務局で登記をしてもらえない場合があります。ですから、遺言で、あるいは、遺産分割協議によって、特定の土地を特定の相続人や受遺者に取得させたいと思うときは、土地の特定をしなければなりません。固定資産税評価証明書や登記事項証明書(登記簿謄本)に記載された内容を書いて特定しなければなりません。
3 登記事項証明書(登記簿謄本)に記載される内容
最初のページが「表題部(土地の部分)」になっていますので、そのページに書かれた「所在」「①地番」「②地目」「③地籍」を書くと、土地の特定は十分できています。
例えば、所在 岡山市北区黄金町一丁目 ①地番 231番 ②地目 宅地 ③地籍 353.5㎡と表示されている土地の場合は、
岡山市北区黄金町231番宅地353.50㎡と書くことで特定できているのです。
遺言で、その土地を妻に与えたいと思うときは、
「遺言者凸山太郎は、.岡山市北区黄金町231番宅地353.50㎡を妻の花子に相続させる。」と書くだけで、遺言者の死亡と同時に、その土地は妻の所有になるのです。
4 土地の評価
土地の評価は難しく、相続人間で評価額を巡って紛争になる場合がある上、相続税を計算する場合に最も苦労するのが土地の価額の計算方法だといわれるです。
相続税の計算過程で見られる土地の評価に関する問題点を簡単に書いてみます。
⑴ 利用状況による違い
①他人が借地権をもって使用している場合・・・底地としての評価
②アパートを建築して使用している場合・・・・貸家建付地としての評価
③評価単位と坪単位が異なる点に注意する。・・・1筆の土地の一部の利用の場合など
④土地の利用状況は、土地の登記簿に書かれた地目と一致するものではありません。固定資産税の納税通知書に記載されている「現況地目」は比較的実態に即していると言えますが、現地調査をして確認しておく必要がある場合もあるでしょう。
⑵ 評価基準
①土地の評価は、路線価によるのか、倍率によるのか?路線価による場合、路線価の設定された道路に面しているか、そうでないか?② 路線価が設定されていない道路の場合、税務署に対し「特定路線価」の設定を申請することができる道路(建築基準法上の道路)か、それのできない道路か?などの点に注意が必要です。
⑶ その他注意すべき点
①路線価があっても、路線価は土地の公法上の規制を考慮して設定されていますので、「容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地」の場合は、減額計算の対象になる場合がある点
②都市計画道路の予定地とされている土地については、建築制限を受けますので、減額補正をする必要がある点
③前面道路が建築基準法42条2項の規定により指定を受けた道路(いわゆる「2項道路」)である場合、セットバックを必要とする土地か、すでにセットバックをしている土地かによって評価が異なる点
④建築基準法上の道路に面した土地であっても、土地そのものの間口が狭く建築基準法上の接道要件を満たしていない場合は、「道路開設費用相当額」の控除をして評価することになる点
⑤土地が周囲の土地や道路との間に高低差があって、がけ地等を有している場合は、減額補正がなされる点
⑥土地が私道である場合、あるいは私道部分を含んでいる場合、私道の形状などによる違いのある減額補正がある点
5土地の評価に必要な資料
①地籍測量図(なければ法務局備え付けの不動産登記法17条1項により作成された地図、なければ公図)
⑦固定資産評価証明書(相続税計算を路線価でしなけらばならない土地の場合は、路線価図)、都市計画図(用途地域・容積率、都市計画道路の有無、内容が分かる)、道路台帳図面(容積率が制限されている場合がある、2項道路のセットバックの要否や範囲が分かる)、道路種別図(建築基準法上の道路かどうかが分かる)
6 固定資産評価額
なお、固定資産税の納税通知書には、評価額と課税標準額が記載されていますが、相続税の計算で評価対象の土地が倍率方式で評価すべき土地である場合は、これにより評価額を把握しておく必要があります。固定資産評価額によっても可能です。