遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 最高裁判所判決の重要性
法律の条文は、抽象的な言葉で書かれています。
また、法律の条文にはない法律問題もあります。
そのため、具体的な事例(紛争類型)に即した法の解釈は、最高裁判所の仕事です。
ですから、最高裁判所の判決で示される法の解釈は、下級審を拘束します。
つまり、下級審の判決は、最高裁判所の判決が示した法の解釈に反する解釈はできないことになるのです。
最高裁判所が示す、下級審を、そして最高裁判所自身を、拘束する法の解釈が、“判例”と言われるものです。
無論、時代のニーズの変化を受け、最高裁判所が、判例を変更する必要が生ずる場合もあります。そのときは、最高裁判所は、大法廷を開いて、従前の解釈を変更することになります。これが“判例変更”と言われるものです。
判例の変更はめったになされるものではりません。それを軽々にしてしまうと、法的安定性を害することになるからです。
いずれにせよ、最高裁判所判決は、実務を支配し、下級審そして最高裁判自身をも拘束する法そのものと言って良いのです。
2 最高裁判所判決の数
本年の1月から10までの間に、判例集に登載された、民事事件に関する最高裁判所の判決の数は70数件にのぼります。年間だと90件前後でしょうか。
上述した、重要な法律の解釈をする最高裁判所判決が年間90件前後ある、ということは、弁護士もまた、その把握と理解に努めるべきものが、それだけの数あるということです。
3 下級審の判決等
最高裁判所の判決とは別に、重要な法の解釈を示す、下級審の判決、すなわち地方裁判所や高等裁判所の判決、家庭裁判所の審判もあります。
これらも、裁判所がする法律の解釈ですから、実務に強い影響を与えます。
本年の1月から10までの間に、判例集に登載された、民事事件に関する、これら下級審の判決や審判は800件近くにのぼります。年間でいえば、1000件前後というところでしょうか。
4 弁護士の仕事
以上に説明しました、判例集に登載された、民事事件に関する、年間1000件を超える、最高裁判所以下の裁判所の判決等は、弁護士の仕事の重要なツールです。
もし、弁護士の頭の中の知識が、数年前までのものでしかないとなると、弁護士はまともな仕事ができるでしょうか。まず、無理でしょう。
本コラムでは、できるだけ、新しい判例、判決などを引用しながら、法律問題を解説していきたいと思っています。自分自身の学びのためにも。
5 最高裁判所の判決には、注意
最高裁判所の判例はなく、地裁、高裁レベルの判決しかない、という法律問題というのは、結構あるのですが、その地裁、高裁の判決に従って、事件を進める、あるいは示談交渉をしている間に、その解釈を否定する最高裁判所判決が出る、ということがあります。あるいは、古い教科書その他の資料だけを見て、地裁、高裁判決はあるが、まだ最高裁判所の判決は出ていないと思い込み、高裁判決の解釈によって、事件を進め、あるいは示談交渉を始めたところ、実は、その時点で、その高裁判決の解釈を否定する最高裁判所の判決が出ていた、という場合もあります。このような場面に遭遇しますと、弁護士のしてきた努力は、一挙に崩壊です。ですから、解釈について争いが生じそうな法律問題については、地裁判決、高裁判決がある、というだけでは安心できない場合があるのです。弁護士には、最高裁判所判決には細心の注意が必要になるのです。