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相続 32 遺贈の放棄

菊池捷男

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1 遺贈の放棄の意味と効果
 遺贈は、遺言者が、遺言で、自分の財産を特定の者に、無償で、譲渡することですが、遺贈を受ける相手方(「受遺者」)が、必ずしも、その遺贈を喜んで受けるとは限りません。そこで、民法986条1項は「受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。」と定めています。遺贈を放棄すれば、同条2項で「遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と定めていますので、受遺者には、何の法律問題も生じません。

2 黙示の放棄が認定される場合がある
相続人の1人が、自分に遺贈された財産を、自分の財産だと主張しないで、他の共同相続人らとの遺産分割協議の対象に含めて、遺産分割協議を成立させた場合、他の相続人から見ると、遺贈を放棄してくれたのかと思うでしょう。
東京地方裁判所平成6.11.10判決は、このようなケースで、遺産分割の対象にした財産については、遺贈を放棄したものと認定しております。
つまり、遺贈の放棄には、特段の方式はないので、黙示の遺贈の放棄も認められるということです。

3 包括遺贈については、適用がない つまり黙示の放棄はない
 2のケースは、不動産、株式、預貯金など、資産を特定した遺贈のケースです。これを特定遺贈といいますが、この場合は、受遺者が遺贈によってもらったものを、それと知りながら、他の相続人と分割しようというのですから、遺贈の放棄も認めても問題ありません。
しかしながら、遺贈される財産を特定しないで、財産の全部又は一部を、割合で遺贈される包括遺贈の場合は、民法986条の遺贈の放棄の規定の適用はない、というのが通説です。東京地方裁判所昭和55.12.23判決もそうです。

4 包括遺贈を放棄する場合
では、包括遺贈を放棄するにはどうすか、と言いますと、通説は、民法990条が「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」と定めていることを根拠に、相続人が相続放棄をする場合の民法938条「相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。」によるべきだとしています。3の東京地方裁判所の判決の事案は、遺言者が配偶者に対して全財産を遺贈する旨の自筆証書遺言を作成して死亡した後、受遺者が他の相続人に対して「遺言はあるが、これに拘泥せず、公平に分けると明言した」という事案ですが、東京地裁は、「包括受遺者は相続人と同一の権利義務をもち、その放棄には相続人の放棄に関する規定が適用されるので、自己のために包括遺贈があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に放棄の申述しなければ単純承認したものとみなされる」ことになり、口頭の遺贈の放棄は無効である旨判示しました。

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