遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 公正証書遺言の要件
民法969条は、「公正証書遺言」の方式を定めています。
これには、次の4つの要件を満たすことが必要です。
⑴ 証人2人以上の立会いがあること。
証人の立会を必要とする理由は、遺言者に人違いのないこと、遺言者が遺言能力を有すること、遺言者が本人の意思に基づいて遺言の趣旨を口述すること、公証人の筆記が正確であること等を確認するためとされています。
証人については、民法974条で、①未成年者、②推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族、③公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び使用人は、証人にはなれないことになっています。
⑵ 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
口述とは、遺言者が直接公証人に対して遺言の内容を口頭で述べることですが、病気などの影響により、遺言者がその意思を公証人に伝えられない場合が多く、この「口述」の有無について争いになることが多くあります。公証人が質問し、遺言者がうなずくだけでは口述があったとはいえないとされています(最高裁判所昭和51.1.16判決)。遺言者の言語が明晰ではなかったため、家政婦が介添え的な通訳をした場合に、口述を認めた事例(大阪高裁昭和57.3.31判決)があります。
⑶ 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
実務では、遺言の内容が事前に公証人のもとに届けられ、遺言者が公証人役場に行ったときは、すでに公正証書遺言の案ができていて、その後で、遺言者が口述して、完成させることが常態化しています。つまり、実務では、公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させるという順序が守られていないのです。しかし、このような変則的な順序であっても、遺言は有効だとするのが判例(最高裁判所昭和43.12.20判決)です。
⑷ 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
遺言者の署名は重要です。それは、署名には、本人の意思でする遺言を、本人に自覚させ、かつ本人に完成させる、という意味があるあるからです。
ですが、「遺言者が署名することができない」とき、つまり、読み書きの出来ない者、手に機能障害がある者、病状などにより自書ができない者もいるはずですから、そのような者がいるときは、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができることになっているのです。裁判所は、この要件を厳道に考えています。東京高裁平成12.6.27判決は、「遺言者が署名することができない」という要件を満たしてないのに、本人に署名をさせなかったとして、遺言を無効とした事案です。
⑸ 公証人が、その証書は⑴~⑷に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
2 言語、及び聴覚に障害のある人も、公正証書遺言が可能
これは、新しい後見制度ができた平成11年の民法改正のときに、それに合わせて、可能になった制度です。民法969条の2にそれが規定されています。
3 公正証書遺言検索システム
これは、法令に基づくものではありませんが、公証人連合会は、平成64.1.1以降公正証書遺言をした人の遺言情報をデータベース化して、公証人からの問い合わせに対し、遺言の有無と遺言公正証書を保存している公証役場を教えるシステムを構築しております。一般の人は最寄りの公証役場で、遺言者の相続人であることを証明する書類を添付して申請すれば、それを教えてもらえます。そして、公正証書遺言のある公証役場が分かれば、その公証役場に対して、公証人法44条でその閲覧を、同法51条で謄本の交付請求をすれば、閲覧ができ、また謄本を交付してもらえます。