地方自治 概算払と前金払の違い
本連載コラム「行政」の10と11で、補助金に関する4件の最高裁判所判決を紹介しましたが、これらは、いずれも、原審(二審)が、自治体のした補助金の支給は裁量権の濫用または逸脱によるもので違法だ、としたのに対し、最高裁判所が、裁量権の濫用または逸脱があるとは言えない、として住民からの請求を棄却するか、審理をやり直せと原審に差し戻しをするかしたものばかりです。
これらの最高裁判所判決を見る限り、司法は、行政のする補助金の支給に関しては、その是非を論ずるべきではない、という姿勢が見られます。
いえ、補助金だけでなく、コラム「行政」の8で解説した、地方議員への定額制「費用弁償」についても、最高裁判所は、それを定めた条例は違法は言えない、との判断を下し、これも原審判決を破棄しており、行政のする「裁量」に謙抑的な姿勢が見られます。
最高裁判所判決の理由を見ますと、最高裁判所は、補助金については議会が予算審議を経てそれを承認し、費用弁償については議会によって条例が制定されていること、を取り上げていますので、議会の議決を尊重していることは明らかです。
最高裁判所の、議会の議決を含む行政のする「裁量」尊重の姿勢は、一部の弁護士からは「厚い裁量の壁」と捉えられているところですが、ただ、これらの判決事案は、二審段階ではことごとく行政のした裁量を違法だと断じていること、関釜フェリー事件では、最高裁判所の裁判官の中で有力な反対意見が表明されていることから、いつまで、今の姿勢が続けられるのかは疑問です。
行政事件訴訟は、大きく変化し、原告適格の拡大、取消対象の「処分性」拡大などで、一般住民の救済の機会は格段に増えています。東京地方裁判所の行政部に提起される事件数は、激増したとまで言われています。
しかし、内容までが、一気に、住民有利になっているとは言えない現実があるのです。
補助金はよくない。経営者が経営努力をしなくなるから。
これは、岡山県有数の企業の経営者がテレビ番組の中で語っていた言葉です。
行財政改革の必要に迫られている自治体の首長に、補助金を支給するとき、特に、第三セクターの赤字の穴埋めに補助金を支給するとき、玩味していただきたい言葉です。
なお、最高裁判所平成17.11.10関釜フェリー事件の判決の中で、才口千晴判事は、市長は、この件の「多額不毛の補助金」については納税者たる市民の負担増加に思いを致し、政治判断を優先させることなく、これを無益な補助金であるとして議会に提出せず、また予算執行を避けるための決断をすべきであった、と指摘されていますが、この言葉は、現在の補助金行政の一端を指摘している、と言えなくもありません。