地方自治 概算払と前金払の違い
最高裁判所平成22年6月3日判決の事例より
冷凍倉庫を一般倉庫と誤り、固定資産税が過大に徴収される事件が、起こりました。多くの市町村は、長年にわたってこの違法な課税を続けていたのですが、違法な課税処分とそれに基づく納税がなされた場合、法的には、固定資産税の法廷納期限の翌日から5年を経過したときは、課税庁はその課税処分を取消・変更が出来ず(地方税法17条の5第2項)、また過納金の還付もできないのです。そして、納税者自身も、過納金の納付日から5年を経過した後は、時効により還付請求ができなくなる(同法18条の3第2項)のです。
つまり、違法な課税処分に対して、その取消し、あるいはその無効の確認という、伝統的な争い方(抗告訴訟)では、救済されるのは5年分だけというのが、法律の規定であり、従前の考えだったのです。
そこで、この事件の納税者は、平成14年分から平成17年分までの過納した固定資産税の還付は受けたのですが、昭和62年から平成13年までの分の還付を受けることができなかったので、その争い方でなく、違法な課税処分を、国家賠償法による「不法行為」として捉え、課税処分の取消を経ないで、いきなり、市町村に損害賠償の請求をする方法を選んだのです。
この方法だと、違法な課税処分を知ったときから3年間、違法な課税処分がなされたときから20年間の過納金の返還請求が出来ることになるのです。
ここで、問題になったのが、「行政処分の公定力」です。
公定力とは、その行政処分が、重大かつ明白な瑕疵があって無効とされる場合以外は、有効なものと扱われ、執行力などの効力を有するという「力」あるいは「効果」ですので、この公定力を認める限り、課税処分を取消しないで、その「違法性」を根拠に損害賠償の請求はできないはずなのです。
ところが、最高裁判所平成22年6月3日、原審が公定力を根拠に課税処分の取消をしないで、損害賠償の請求はできないと判示したのに対し、課税処分の取消ししないでも、損害賠償の請求はできると判示し、原判決を破棄しました。
これも、抗告訴訟ではなく、当事者訴訟で、住民(納税者)を救済した例に追加されるものです。