地方自治 概算払と前金払の違い
仮の義務付け制度は、裁判所が、地方公共団体(自治体)に、最終判断をするまでの間、暫定的に、義務を課す決定をすることができる制度です。
これも、新しい制度です。
徳島地方裁判所平成17.6.7決定は、二分脊椎等の障害のある子について、町教育委員会が、町立の幼稚園への就園を不許可とする決定をしたため、裁判所は、この制度(行政事件訴訟法37条の5)により、就園を仮に許可せよとの、決定を出しました。
町の教育委員会は、幼稚園が介助を必要とする障害者向きに作られていないこと、そのための教職員もいないこと等を理由に就園を拒否したのですが、
同決定は、「子どもには、・・・自己の人格を完成するために必要な教育を受ける権利が憲法上保障されており・・・心身に障害を有する幼児にとって、・・・特に、幼少期から、障害の有無にかかわりなく他者とともに社会生活を送り、自主的、自立的な精神を育むことが重要であり、・・・その障害を克服する意欲を持続するためにも、他者との社会生活が重要となる場合もある・・」と障害のある子への幼児教育の重要性を指摘し、「地方公共団体としては、幼児の保護者から公立幼稚園への入園の申請があった場合には、これを拒否する合理的な理由がない限り、同申請を許可すべき・・・障害を有する幼児に対し、一定の人的、物的な配慮をすることは、社会全体の責務であり、公立幼稚園を設置する地方公共団体においてもこのような配慮をすることが期待される」と。地方公共団体の義務に触れ、「当該幼児に障害があり、就園を困難とする事情があるということから、直ちに就園を不許可とすることは許されず、・・・当該幼児の就園を許可するのが真に困難であるか否かについて、慎重に検討した上で柔軟に判断する必要がある」のに、当該町はこれをしていなかったので、「不許可処分に合理的な理由がない」とされたのです。
東京地裁平成18.1.25決定は、 空気の気道を確保する器具(カニューレ)を装着している子の親権者が、市立の普通保育園への入園申込みをしたのに対し、福祉事務所長が不承諾処分をしたため申立られた事件で、この処分は、「裁量の範囲を超え又はその濫用となるものであり、処分は違法である」として、その子の普通保育園への入園を仮に承諾せよ、と仮の義務付けをしました。
なお、この仮の義務付けの決定という制度は、平成17.4.1に出来た新しい制度の1つです。それ以前だったら、このような救済はされなかったのですから、行政事件訴訟法の改正がいかに、行政と住民双方に、大きな効果を持っているか明らかでしょう。
なお、仄聞するところ、徳島地裁の事件は、代理人弁護士が、この制度が利用できることになった平成17.4.1を待って、この日に仮の義務付けの申立をしたとのことです。
その申立後、2ヶ月少しで、その決定が出たことになりますが、その弁護士さんの研究心と熱意に敬意を表します。
なお、さらに付言しますと、子の教育に関する仮の義務付けは、他にも、市立養護学校への就学に関しての大阪地裁平成19.8.10決定などもあります。
参照
行政事件訴訟法37条の5
1項
義務付けの訴えの提起があつた場合において、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずること(以下この条において「仮の義務付け」という。)ができる。