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相続 19 生命保険金2

菊池捷男

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1生命保険金は、原則として、特別受益にもならない。
特別受益とは、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるとき」の「遺贈を受け又は贈与を受けたこと」を言います(民法903条)。
本コラムの相続7の「抽象的相続分と具体的相続分」のところで詳述しましたが、特別受益者は、「特別受益の持ち戻し」をしなければなりません。
しかしながら、生命保険金は、原則として、この特別受益にもならない、というのが最高裁の判例になっているのです。
すなわち、平成16.10.29最高裁決定(判例時報1884-41)は、「死亡保険金請求権は,被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり,保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく,被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであるから,実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできない。
したがって,上記の養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当である。
と判示したのです。
2 例外ー特段の事情がある場合
死亡保険金が、特別受益にもあたらないという見解には、学説は批判的です。その理由は、死亡保険金を受け取ることになる相続人のみが有利な扱いを受けるからです。前記最高裁も判示するように、「死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は,被相続人が生前保険者に支払ったものであり」ます。また、「保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生する」のですから、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に不公平な結果が生ずることは明らかです。そこで、前記最高裁も、「不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条(注:民法903条)の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。」と例外を認めているのです。
3 特段の事情の抽象的内容
前記最高裁は、「上記特段の事情の有無については,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」と判示しております。
4 特段の事情の具体的内容
・否定例、
前記最高裁は、「死亡保険金が782万円、相続財産が6997万円の事案でしたが、「保険金の額,本件で遺産分割の対象となった本件各土地の評価額,前記の経緯からうかがわれるBの遺産の総額,抗告人ら及び相手方と被相続人らとの関係並びに本件に現れた抗告人ら及び相手方の生活実態等に照らすと,上記特段の事情があるとまではいえない。したがって,前記死亡保険金は,特別受益に準じて持戻しの対象とすべきものということはできない。」と判示しております。
肯定例
・東京高等裁判所平成17年10月27日決定は、保険金額は合計1億0129万円。遺産の総額が、相続開始時評価額1億0134万円であること、受取人を抗告人に変更なされた時期やその当時抗告人が被相続人と同居しておらず,被相続人夫婦の扶養や療養介護を託するといった明確な意図のもとに上記変更がなされたと認めることも困難であることなどから、「上記特段の事情が存することが明らかというべきである。」と断じおりております。ただ、この事案では、抗告人は、他に合計2000万円の死亡保険金を受取っていうのですが、これについては特別受益とは認定していません。
・名古屋高等裁判所平成18.3.27決定は、妻が取得する死亡保険金等の合計額は約5200万円とかなり高額で、相続開始時の遺産価額の61パーセントを占めること、被相続人と妻との婚姻期間が3年5か月程度であることなどを総合的に考慮して、死亡保険金等を持戻しの対象としています。

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