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法律上の争訟性

2021年10月1日 公開 / 2021年11月16日更新

テーマ:宗教法人関係

コラムカテゴリ:法律関連

今日は、民事裁判の中でも、なかなか問題になることがないが
宗教法人関係の事件の場合には問題となりがちな、少々マニアックなことについて書いてみたい。


訴訟要件としての「法律上の争訟性」

まず前提として、民事裁判においては、原告の請求が認められるかどうか、ということが争われる。

貸金返還請求であれば、お金を貸した事実があるのか、いくら貸したのか
いつ返すことになっていたのか、などに関する原告の主張内容が正しいのかどうかが争われる。


しかしその前に、訴訟要件というものを充たしている必要がある。
訴訟要件には様々なものがあるが、その中に「法律上の争訟性」(裁判所法3条)という要件がある。

では「法律上の争訟性」があるとはどういうことか。
これは
①当事者間の具体的権利義務・法律関係の存否に関する紛争であり
②法令の適用によって終局的に解決できるものであること
とされている。

「法律上の争訟」に当たらない場合は
原告の請求の中身の判断はされずに、訴えは却下される。
いわば門前払いである。


法律上の争訟性を争った事件

以下は、僕が現実に弁護士一年目に担当したある事件である。

事案は
あるお寺(J寺)の代表役員(住職)であったF(故人)から寺の寺務一切を任されていたY(依頼者)が
本山の管長(法主)Aが任命したJ寺の新代表役員(住職)Xより
Yは権限なくJ寺を占有(支配)しているから、J寺を明け渡せ
という請求を受けたというものだった。

Fは昭和57年段階で、本山の管長(法主)Aから住職罷免の処分を受けており
法人登記上はFの後に3名が本山から任命されて代表役員として登記されていた。

つまりFは、住職罷免処分を受けた後も
別の代表役員(住職)が選任されている状況の下、J寺の住職としての活動を続けていたということである。

Yは僧籍を有しており、Fの後を受けてJ寺の実質的な住職としての活動を行っていた。


通常であれば、Yは法人登記上代表役員ではなく
住職罷免処分を受けたFから任されていたのみであるから
J寺を占有する権限はないとして、Xの請求が認められるのが筋だ。


しかし、僕たち弁護団(加藤弁護士、湖海弁護士、藤田弁護士と僕)は
Xを代表役員(住職)に任命した本山管長(法主)Aは、正当な管長(法主)ではない
Aが正当な管長(法主)であるかどうかは本山の教義に立ち入って判断しなければならず
それは裁判所の役割を超えているから
本件は「法律上の争訟」に当たらず(上記②の要件を欠く)
訴えが却下されるべきである、と争った。


裁判所の結論は

結論はどうだったか。

なんと、一審はこちらの主張が認められて勝訴した。
ちなみに、訴訟要件を欠くという理由で原告が敗訴することは
そうそうあることではない。


しかし、これに不服ありとして原告は大阪高裁に控訴し
控訴審では、ひっくり返されて逆転敗訴した(破棄差戻しとなった。)。
控訴審の判決は、判例タイムズ1334号245頁に掲載されている。


一審と控訴審で結論が分かれた理由は

Aが本山の正当な管長(法主)であるためには
当該宗派では「宗祖以来の唯授一人の血脈を相承するものである」ことが必要であった。

これがなされているかどうかを判断するためには、血脈相承の意義を明らかにしたうえで
Aが血脈相承を受けたかどうかを判断しなければならない。
そのためには、当該宗派の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理・判断することが必要となる。

これは、法令を適用することによっては終局的には解決できないことである
と当方は主張したのであった。


一審は当方の主張を認めたが、控訴審はこれを認めなかった。


控訴審は、当方依頼者のYがJ寺を占有する権限を有するかどうかを判断するためには
前提問題としても宗教上の教義や信仰の内容を判断する必要はなく
J寺の代表役員(住職)が誰であってもXの請求が認められるかどうかの結論は異ならないから
法律上の争訟性を充たしていると判断した。


かかる判断の背後にあるのは
法的安定性の重視と利益考量だったのではないかと思う。

当該宗派では、既にAを正当な管長(法主)とする秩序が形成されており
この安定性を重視したというのが一つ。

そして、YはJ寺の代表役員(住職)に就任したことはなく
亡くなった代表役員(住職)Fから寺務を任されたのみ、というJ寺に対する利益関係しかなかったため
上記の安定した秩序に基づく本山側の請求をはね除けるだけの利益関係がなかった
ということがあったのではないかと思う。


宗教法人に関わるきっかけとなった事件であった

この事件は、僕が弁護士になりたての頃に担当し
宗教法人のなんたるかもまったく分かっていない状況で
ほぼすべての裁判所に提出する書面を作成した、非常に思い出深い事件である。


見通しは極めて厳しかったが、一審で勝訴することができたし
最高裁に提出した上告理由書と上告受理申立理由書も、会心の出来であった。
登録一年目で、最高裁の破棄判決が取れるのでは!などと考えていたほどであった。

結論が出る前にYが亡くなられたため、控訴審の判断が確定し、事件は終了したが
僕が宗教法人に関わるきっかけとなった事件であった。


なお、当該宗派については
同じ根っこを問題とする多数の最高裁判決があるので、以下にご紹介しておく。
最二小判H1.9.8 判タ711号80頁
最三小判H5.9.7 判タ855号90頁
最三小判H5.7.20 判タ855号58頁
最二小判H5.9.10 判タ855号74頁
最三小判H11.9.28 判タ1014号174頁
最三小判H14.1.29 判タ1087号103頁
最二小判H14.2.22 判タ1087号97頁


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弁護士西村友彦(にしむらともひこ)

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