マイベストプロ東京
小田原漂情

国語力に定評がある文京区の総合学習塾教師

小田原漂情(おだわらひょうじょう) / 学習塾塾長

有限会社 言問学舎

コラム

言葉の力

2012年4月18日 公開 / 2012年4月19日更新

コラムカテゴリ:スクール・習い事

 全くのわたくしごとですが、去る4月8日に、父がみまかりました。85歳でした。

 7日の土曜日に、塾の仕事を終え、神奈川県大和市にある、入院中の病院に直行しました。前日の朝も顔を見に行っていたのですが、その日の午後、心臓の動きが遅くなったとの連絡が兄からあり、交代で病院に詰めるつもりで向かったのです。

 ずっと付き添っていた母が疲れているので、7日の夜は一度家に帰ったのですが、ほどなく病院から「すぐ来るように」と呼び出され、タクシーを待って病院へ駆けつけた時には、すでにこと切れた後でした。さほど苦しい思いはしなかったかに見えたのが救いでした。8日の未明、午前1時5分のことです。

 父逝きて空白み来たるひと朝は虚構ならざり桜(はな)しづかなり

 私はちょうど一年前から短歌に復帰したのですが、十年近いブランクがあり、はなはだ散文的な(会社経営という)日常にあるためか、以前のように言葉が一首を流れてゆく感覚が乏しく、言葉のつながりがゴツゴツしているように、ずっと感じられていました。
 ところが、病院から父(のなきがら)を連れて帰り、葬儀の段取り等の打合せを終えた朝のことを思い出している時、上に掲げた一首が、するりと詠み下せたのです。久しぶりに、「歌」が自分に帰って来た思いがしました。

 父は短歌を詠んでいたわけではありません。けれども「歌唱」の方の歌は大好きで、私も大いに影響を受けたと思います。
 また、私は塾で子どもたちに百人一首を教えていますが、自分が小学生の頃は、父が自己流の独特の節回しで、家で百人一首を(いわゆるかるた取り)やっていました。中学で韻文学クラブに入ったこと、そして歌詠みになったことと、この百人一首の体験は、当然無縁ではないでしょう。
 そして父の死とともに、歌ことばとリズムが自分自身に戻って来た、それはやはり、親子というつながりの深さによる一方で、言葉そのものの持つ力が、私を動かしているのでしょう。

 古い時代の人間ですから、若いころ、父は相当好き勝手をして、母に苦労をかけたようです。晩年も、父の面倒を見るのが母一人で、しんどい思いの毎日でした。しかしながら、最後の入院をする朝、父は母の顔をじっと見て、「お前には世話になった」という意味のことを言ったそうです。そのひとことですべてが報われた、というのが、母の今の思いのようです。

 父のひとことは、大きな「言葉の力」でもって、長年連れ添った母に報いました。こうして父のことを書いていると、私もまた大きな「言葉の力」に包まれていることを感じます。

 このように大きな力を持つ「言葉」のすばらしさを多くの子どもたちに、そして多くの方々に伝えることが、私の為すべきことであるのでしょう。それは父の供養でもあり、また古来数多の言葉を紡いで来られた先人たちに報いうる、私のつとめなのだと考える次第です。
 

国語力に定評がある文京区の総合学習塾教師
小田原漂情
文京区の総合学習塾・言問学舎






 

この記事を書いたプロ

小田原漂情

国語力に定評がある文京区の総合学習塾教師

小田原漂情(有限会社 言問学舎)

Share

小田原漂情プロへの
お問い合わせ

マイベストプロを見た
と言うとスムーズです

お電話での
お問い合わせ
03-5805-7817

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

小田原漂情

有限会社 言問学舎

担当小田原漂情(おだわらひょうじょう)

地図・アクセス

小田原漂情のソーシャルメディア

rss
ブログ
2024-04-10
youtube
YouTube
2011-06-23
youtube
YouTube
2022-06-11
  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京のスクール・習い事
  4. 東京の学習塾・進学塾
  5. 小田原漂情
  6. コラム一覧
  7. 言葉の力

© My Best Pro