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小堀將三

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小堀將三(こぼりしょうぞう) / マンション管理士

マンション管理士事務所JU

コラム

管理規約改正支援にあたって思うこと(再掲載コラム⑱)

2024年6月27日

テーマ:管理規約・法律関連

コラムカテゴリ:住宅・建物

2023.04.13掲載
 ご存じの方もいらっしゃると思いますが、20年ほど前、雪印乳業(現雪印メグミルク)は2つの大きな事件を起こしてしまいました。1つは、2000年6月の集団食中毒事件で、もう1つは、2002年1月の牛肉偽装事件です。1つ目の集団食中毒事件は、6月25日に雪印低脂肪乳を飲んだ和歌山県の子供3人が嘔吐の症状をあらわしたことから始まりました。

 その日に報告を受けた和歌山県の保健所が対応を無視したこと、そして、雪印乳業による製品の自主回収が遅くなってしまったことで、食中毒の被害が拡大してしまいました。自主回収したのは29日で、最初の食中毒が発生してから4日後です。最終的には13,420人の方が食中毒にかかってしまいました。北海道にある雪印乳業大樹工場の生産設備で3時間の停電が発生し、約4時間の間20度以上にまで温められた脱脂乳に病原性黄色ブドウ球菌が増殖し、脱脂粉乳内に毒素(エンテロトキシンA)が発生してしまいました。本来、滞留した原料は廃棄すべきものを、殺菌装置で黄色ブドウ球菌を死滅させれば安全と判断して脱脂粉乳の製造を続け、毒素が残ったままの脱脂粉乳を大阪工場に送ってしまったことが原因です。
 上層部が株主総会に出席していて判断が遅れたとはいえ、情報開示の遅れや事件の対応のまずさから、雪印乳業は世間から厳しい非難をあびることになり、スーパーマーケット等のお店の棚から一斉に雪印乳業の商品が撤収される様がテレビで報じられました。

 2つ目の牛肉偽装事件は、国内でBSE(狂牛病)感染牛が発見されたため、国はBSE全頭検査開始前のBSE感染牛かもしれない国産牛肉を事業者から買取る対策を実施したのですが、この制度を雪印乳業の子会社である雪印食品が悪用して、約280トンの安価な輸入牛肉を国産牛肉と偽って申請し、交付金2億円を不正に受給した詐欺事件です。事件は2002年(平成14年)1月23日の朝日新聞、毎日新聞の報道で表面化し、3ヶ月後の2002年(平成14年)4月末に、雪印食品(株)は解散しました。
 1つ目の集団食中毒事件では、社会に牛乳、乳製品をはじめとする加工食品の製造に、不信と不安を消費者に抱かせ、2つ目の牛肉偽装事件によって、雪印乳業の考えや上司の指示がコンプライアンスや企業倫理に反するものであったことが露呈してしまいました。

真っ白な大地を踏みしめ 彼らは立ち上がった
牛は不毛の地を肥沃にし ミルクは人々を健やかにする
自分たちの使命は 育まれた大地の恵みを人々に届け 豊かな社会を創造することだと
彼らは その誓いを雪の結晶で表した
およそ100年前のことだ

 このナレーションでNHKが「エラー 失敗の法則 雪印2つの事件」という番組を放送しました。2つの事件の内容と、消費者から社会から見放された会社が現在の雪印メグミルクになるまで、7人の有志で立ち上げた「雪印体質を変革する会」の方の血の出るような努力と苦労された内容が放送されていました。会の中心者はこう言っています。「内向きの自分たちの論理だけでは自分たちの体質というのが全くわからない。お客様にしっかりと向きって、お客様の話を聞き考え話し合う、これが最も大事なことであり、これが本当の変革につながる」と。この放送を見て、ひとつ感銘したことがありましたので、それをお話ししたいと思います。
 雪印乳業は集団食中毒事件を反省して、次の「雪印企業行動憲章」を2001年に作成しました。
・お客様第一主義
・食品の安全確保
・公正で透明性のある企業活動
・社会貢献と環境への配慮
・法令・規定の遵守
・働きがいのある職場づくり
 また、当時では珍しい社外取締役を置きました。その方は女性で、消費者運動を牽引きされた日和佐信子さんという方です。この番組のためにインタビューを受けられたのですが、残念なことに、この番組が放送される約2ヶ月前に亡くなられました。彼女は企業倫理委員会の初代委員長に就任し、精力的に社内や工場を回って社員とコミュニケーションをとり雪印乳業を立ち直そうとしましたが、会話したほとんどの社員が「雪印企業行動憲章」の内容を知りませんでした。実はこの憲章は外部の制作会社の協力で作成されたものだったそうです。ある意味、他人が作り上げたものです。
 そこで彼女は、「誰も知らない。とにかく形だけ作っていて、それをきちんと利用していない。じゃあ作り直そう。どうせ普及していないんだったら、新しく作っていいわけじゃないですか」と言って、自分たちの手で行動規範をつくることにし、まずは事務局で大枠を作り、全従業員(その当時の数は不明ではあるが2009年時で1397名)から800人ほどの意見の聞き取りを行ったうえで最初の原案を作成しました。その原案に対するアンケートを実施したところ1500通を超える回答があったそうです。その後、原案から16回修正し最終案をまとめ上げたとのことです。彼女が素晴らしいのは、その最終案を持って全国に説明に駆け回ったとことです。
 そして、2003年に「雪印乳業行動基準」が完成しました。彼女は言います。「みんなで参加して作って、そしてみんなで守ろうということになれば、自分たちも作ったところに参加しているわけなので守りたいってなりますよね。」

 この彼女の行動は、管理組合の管理規約の見直しの方法とよく似ていると思いました。見直し素案を作成し、素案の内容を検証して原案を作成する。その後、組合員の皆様の意見を聴収するために原案をもとに住民説明会を開催する。そして、聴収した意見を反映した最終案を取りまとめ総会で承認をしてもらう。とても似ています。ただし、現実的には違うところがあります。それは、みんなで作成した規約見直し案と言うにはほど遠いということです。彼女が言うように、みんなで参加して作り上げたら、みんなで守ろうという意識がでますが、規約見直し案の意見聴収のアンケートを実施しても5割戻ってくることは、今まで私がお手伝いさせていただいた管理組合様の中ではありません。住民説明会の参加率も、せいぜい2割ぐらいまでです。1割も満たない場合もありました。できる限りの区分所有者様に参加してもらうために何度も何度も開催すれば良いのかもしれませんが、その労力を役員の方にお願いすることはとても難しいです。彼女が言っているように、みんなで管理規約を作り上げることができたら、みんなで規約を守ろうという気持ちになってもらえるのかもしれません。今、3つの管理組合様で管理規約の見直しのお手伝いをさせていただいていますが、できる限り区分所有者様に関心を持っていただき、意見を吸い上げられるよう、また多くの方が住民説明会に参加してもらえるように、手を変え品を変えて行うことを考える必要があると思っています。3つの管理組合様のうち1つは14戸ですので、まずはこの管理組合様で全員参加のもとで管理規約の見直しができるように始めたいと思います。
 最後に、現雪印メグミルクでは、集団食中毒事件が発生した6月27日と、牛肉偽装事件が発生した1月23日を「事件を風化させない日」として制定し、今なお活動しているとのことです。下記の動画からこのNHKの放送番組が視聴することができるようですので、1時間ほどの放送ですが是非ご覧いただければと思います。

   エラー 失敗の法則「雪印 2つの事件」 - 動画 Daily

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小堀將三

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