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小堀將三

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小堀將三(こぼりしょうぞう) / マンション管理士

マンション管理士事務所JU

コラム

神戸市マンションのタイル剥落訴訟で和解成立

2021年2月5日 公開 / 2021年2月27日更新

テーマ:建築関連

コラムカテゴリ:住宅・建物

 以前紹介させていただいた神戸市の外壁タイル不良施工マンション(アパタワーズ神戸三宮)の管理組合は、2017年12月に、外壁タイルの落下及び浮きは施工不良が原因だとして、施工会社の「アパホーム」(金沢市)や工事の請負会社など3社を、補修工事費など約2億4300万円の損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こしていましたが、先月末に、大木建設(東京都)が1億1千万円、施主のアパホームが約540万円を支払うことで和解したようです。
 「アパタワーズ神戸三宮」は、2005年9月に完成された20階建て249戸のマンションです。JR、阪急電車、阪神電車の三宮駅からも非常に近くて立地がよく、また天然温泉付きのマンションということでとても人気を得ていました。
 最初に施工不良が判明したのが、耐震不足です。阪神淡路大震災が発生したこの神戸に耐震不足のマンションを建てたことについて、当時、住民の方には相当な驚きと怒りがあったようです。この2年前の2005年11月以降から、アパグループのマンションやホテルで、地震に対する安全性などを記した構造計算書の偽造と建物の強度不足が全国的に判明しており、この「アパタワーズ神戸三宮」でも耐震強度偽装が発覚したのです。神戸市の調査では、建物全体の十数%に当たる約500の部材で鉄筋の量不足による強度不足が分かったため、耐震補強工事を行い2014年4月に完了しています。
 そして、工事が完了したのも束の間、約1年後の翌2015年3月に、14階バルコニーのタイルが幅約1・5メートルにわたってはがれて4階のベランダに落下しました。重さは20キロ以上とみられています。タイルの一部が公道にも落ちたようですが、幸いにも通行人等への事故はありませんでした。
 「アパホーム」に不信感を抱いた管理組合が別の建築会社に独自調査を依頼したところ、はく落やはがれやすい「浮き」の状態が建物全体で14.86%、最も割合の高い建物南側では35.75%を占めていることが判明したため、管理組合は、このまま危険な状態を放置できないと判断し、総会決議を経て約2億円の自費でタイルの貼り替えを行っています。その際には、1億円を借金しています。
 その後、貼り替え費用の一部を負担するようにアパホーム側に申し出ましたが、「工事金額は弊社の算定した金額と大きく乖離している。」、「負担割合についても合意できるものではない。」として、申し出を断れてしまいました。
 このマンションでは、一般的な1回目の大規模修繕工事実施の周期内(築12年)で、外壁タイルが落下しています。
 平成20年4月に改正された建築基準法では、外壁タイルは、竣工後、外壁改修又は全面打診検査後10年を超えて、3年以内に外壁改修又は全面打診検査の実施が確実ではない場合等には、「タイル等の落下により歩行者等に危害を加える恐れのある部分の全てを全面打診等」による確認が必要とされていますので、ここで想定する期間内では落下はあり得ないという事です。そうでなければ、あらゆる築10年のマンションでタイルの落下があり得るという事になってしまいます。
 それにも関わらずタイルの落下が起きてしまったという事は、とても経年劣化が落下原因とは考えにくいと思われます。また、先程の管理組合の独自調査の結果である「浮き」の割合14.86%ですが、築10年で5%程度であると言われていますので、とても経年劣化とは言えるような割合ではありません。これだけ「浮き」が多いということは、「目荒らし」をしていないか下地の清掃処理が不十分であったことが原因であると考えられています。
 裁判では、施工を行った大木建設がタイルにモルタルを塗って貼り付けたと説明していますし、また製品の使用説明書には、貼り付け先のコンクリートにもモルタルを塗ってこすりつける必要があると書かれていますので、裁判所も『はく落が起きないように十分な注意を怠った』と判断しています。
 実際に落下したタイル裏の接着面はツルツルだったようです。コンクリートの下地に「目荒らし」を施していれば、「目荒らし」の後が接着面に残るのですが、それがなかったのです。

 また、接着モルタルの量も少なく接着面に隙間が見られたようです。たぶん、団子張りで施工されたのではないかと推測されています。「団子張り」は、タイル裏面に接着モルタルを団子状に載せて、壁面の下部から上部へ、面調整を行いながら積み上げていくようにしてタイルを張り付ける方法で、「積上げ張り」とも言われています。外壁では白華が生じやすく、施工能率も悪いことから、現在では、外壁には採用されていません。現在では、「密着張り」や「モザイクタイル張り」が多く採用されています。

 マンションの外壁にタイルが施工されているのは、単に高級感も見せるための美観上の理由だけで、タイルによりコンクリート面の防水ができず、かえって雨漏りが発生する恐れもあると言われています。何よりも、タイルが剥離しまう可能性があるというデメリットが大きく、そのデメリットは人の生死に関わることも有り得ることで、タイルは凶器となります。もし最悪の事態が起きたときには、今回の「アパタワーズ神戸三宮」では和解で決着しましたが、施工不良で責任を追及できた事例は本当に稀です。
 国土交通省は外壁タイル剥落事故の多発を受け「定期報告制度」を改訂し、外壁タイルの打診検査を義務化しています。ただ、これも結局、定期的な調査と報告を怠って責められるのは買い手(管理組合)であって売り手ではありません。あまりにも一方的に売り手側に味方した消費者軽視と言えるでしょう。

 建物は必ず経年劣化します。管理組合様がその劣化度をしっかりと把握しておく事はとても重要です。そのためにも、管理会社が年に1度実施する建物調査診断をうまく利用することをお勧め致します。
 ほとんどの管理組合様は、管理会社と「建物・設備管理業務」の委託を契約しているはずです。契約書の第3条には管理事務の内容と実施方法が記載されており、そのうちの1つが「建物・設備管理業務」で、建物点検の箇所については、別表第4に詳細に掲げられています。点検方法は外観目視ですが、外壁等のひび割れや白華状況、塗膜の浮き、漏水による膨れなどは十分わかります。
 この調査結果の報告が管理会社からありますが、大抵は、理事会で報告書を配布して、フロントマン(管理組合担当者)が報告書を読み上げるだけです。説明と言えるような内容ではありません。これでは、劣化度の原因等の内容や、適正な補修について知ることができません。建物点検を実施した者に理事会に出席していただき、十分な説明時間を設けて、その者から点検結果を説明してもらえるように、是非、管理会社に打診してもらいたいと思います。

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