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24 荒れ野の40年

菊池捷男

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テーマ:新著の概要紹介

 西ドイツ(当時)のリヒャルト・ヴァイツゼッカー大統領は、1985 年5月8日、第2次世
界大戦終戦40 年を記念して、「荒れ野の40 年」を世界に向けて、ラジオを通して演説をし
ました。この演説は、世界中の人が聴きました。その格調高い演説により、世界の多くの人が、
第2次世界大戦がいかに甚大な惨禍(その最たるものはユダヤ人に対する迫害や大量虐殺)を引
き起こしたかについて、多面的かつ具体的に知ることができました。そして、戦後40 年間
にわたる、ドイツ人の厳しくも険しい贖しょく罪ざいの道と悲惨な生活(戦後ドイツ以外の国に住むドイ
ツ人が受けた迫害など)、特に女性の不幸と悲しみに涙しました。
 この演説の中で、ヴァイツゼッカー大統領は、第2次世界大戦の原因が敗戦国のドイツの
みにあるのではなく、戦勝国にもあるというウィンストン・チャーチルの言葉を引用して、
ドイツの立場を恥ずかしくないものにしたうえで、ナチスが行った残虐な行為の反省を込め
て、「これからのドイツは、人種、宗教、政治上の理由から迫害され、死の恐怖にさらされ
ている人々が保護を求めるとき、門戸を閉ざすことはないでありましょう」と言い、寛容な
移民受け入れの考えを表明しました。
 また、若い人たちに対しては「過去の歴史から逃げてはいけない。歴史に目を背そむけること
は、未来を見ようとしないことだ。過去の反省に立って、他の国の人たちとは、互いに手を
取り合って生きていくことを学んでほしい」という言葉で、演説を締めくくりました。
 コラム23 に書いたチャーチルの「勝者の愚行」という言葉が、ドイツ人に励ましと癒い や
しを与えたことは間違いないことと思います。現在、ドイツが移民と難民の受け入れに極め
て熱心であり積極的であること(コラム62 参照。なお、2021 年9月5日付の日本経済新聞には「ド
イツは欧州最大の難民受け入れ国」という言葉が載っているほどです)は、ヴァイツゼッカー大統
領のこのときの演説と無縁ではないでしょう。
 なお、このヴァイツゼッカー大統領の演説には題名は付けられていません。「荒れ野の40
年」という題名を付けたのは、日本人のようです。その日本人は、ヴァイツゼッカー大統領
がこの演説の中で旧約聖書を引用し、何度も「40 年」という言葉を使ったこと、この40 年
という言葉は、旧約聖書に書かれたユダヤ人の先祖たちが出しゅつエジプトを果たし約束の地であ
るカナンに至るまでの苦難に満ちた40 年と重なる言葉であったこと、ヴァイツゼッカー大
統領が、ドイツの無条件降伏からちょうど40 年目の記念日にこの演説をしたことから、同
大統領の心を

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菊池捷男(弁護士)

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