M&A 6 銀行もM&A市場に乗り出す
17 グローバル社会では、観念よりも概念が重要
(1)フジテック対アクティビスト(物言う株主)の対決
2023年2月に、社外取締役の資質を巡って、会社側対アクティビスト(物言う株主)側が、臨時株主総会の場で激しく争った事件があり、この結果の顛末が、2023年4月12日 付けの日本経済新聞記事「社外取締役、受難の時代が到来」に見られる。
この件は、エレベーター大手のフジテックの社外取締役が、フジテックの創業家出身の社長が取締役を退任したのに、その者を取締役会会長にした会社提案議案に賛成したことを理由に、外国籍のアクティビスト(物言う株主)から、当該社外取締役の解任を求めたことがきっかけで起きたもの。
結果として、臨時総会では、会社側がたてた社外取締役候補者7人のうち5人が落選し、アクティビストがたてた候補者は6人中4人が当選した。
(2)日本人の法に対する規範意識の薄さが引き起こした事件か?
今回のフジテック対アクティビスト(物言う株主)間の戦いは、価値基準の違いから起きたものと思われる。
すなわち、欧米は、他民族国家であり、国民共通の価値の基準は唯一、「法」であるが、日本人は、単一民族から成る国であるので、法よりも「他の価値観」が優先する場合が多く、今回の件も、フジテックが長年代表取締役社長を務められた創業家出身者に敬意を表するため、同人を取締役会会長職に奉じた尊敬の念(観念)が、外国籍のアクティビストには通用しなかったことにあった、と思われるのである。
この事件を機に、日本の経営者も、「法」の世界に「法」以外の価値観を認めることなどできないことを肝に銘じるべきであろう。
(3)概念と観念は、大きく違う
概念とは、内包する意味と外延を明確にした言葉である。
国語辞典に書かれるような、客観的な定義付けができる言葉である。
一方、観念とは、主観的な思いである。
定義付けの不可能な言い回しをいう。
日本人には、概念で意味を伝えるよりも、観念で意味を伝えようとする傾向が強い。
明確な概念を使う、という客観的・科学的な意思の伝達よりも、“行間を読め”、“言外の意味を汲め”、“忖度せよ”、“それが理外の理というものだ”など、語る本人以外の者には理解しがたい、主観的な観念(漠然とした思い)だけを伝えようとすることが多いのである。
要は、今回の事件は、フジテックの取締役の概念軽視が招いた事件ではなかったかと思われるのであるが、特に社外取締役がその案に賛成したことが、アクティビストには許されなかったのであろう。
社外取締役には、会社のする「法」の違法を抑止する職責があるのに、抑止どころか「法違反の行為に賛成した」のであるから、その責任を追及したアクティビストの姿勢には間然する(非難される)所はないであろう。