言葉12 箴言(しんげん)
囊(のう)中(ちゅう)の錐(きり)という言(こと)葉(ば)があります。「囊」とは布(ぬの)の袋(ふくろ)のことです。ですから、「囊中の錐」とは、布の袋の中の錐のことになりますが、転じて、「すぐれた人は多くの人の中にいてもその才能が自然に外に現れて目立つことのたとえ」をいう諺(ことわざ)になっています。
私は、2020―21年度国際ロータリー第2690地区(岡山、鳥取、島根3県からなる地区)のガバナーになり、地区内にある65のロータリークラブを全部、公式訪問して回りました。ガバナーの公式訪問の目的は、むろん明確にされていますが、その上に私自身の目的もありました。それは、将来のガバナー候補者を発(はつ)掘(くつ)することでありました。その発掘の物(もの)差(さ)しに使ったのが、この嚢中の錐だったのです。
すなわち、各ロータリークラブの会長、幹事その他の役員や委員、ポストに就いていない人物を見、眺め、言葉を交わしながら、その中から、何らかの圭(けい)角(かく)を持ち、人(じん)中(ちゅう)の竜(りゅう)を思わす優れた人材はいないかと捜(さが)したのです。何人かの竜がいました。
彼らは、嚢中の錐よろしく、あるいは語る言葉の中に、あるいは仕事の実績の中に、あるいはロータリーがする奉仕の中に、あるいは地域での文化活動の中に、錐の先(片鱗(へんりん))を現し、多くの人に影響を与えている事実を確認しました。ロータリーこそ、まさしく人材の淵(えん)藪(そう)なりを、実感したものです。
嚢中の錐、この視点は大切にしたいと思います。