2 指定相続分
2 日弁連・総会、13年議決の論点①と②を明確に否定
(1)①と②の論点についての日弁連・総会決議に見られる弁護士の総意
日弁連は、平成16年11月10日、臨時総会を開き、日弁連倫理(以下、「旧規程」という。)を廃止し、新たに弁護士職務基本規程(以下、「新規程」という。)を制定したが、その際、旧規程26条2号の「受任している事件と利害相反する事件」という字句は、意味内容が明確ではないという理由で、新規程28条3号で、「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」という表現に改正した。
その上で、日弁連・倫理委員会は、新規程28条3号の「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」の解釈として、弁護士が遺言執行者になり受遺相続人の代理人になる、いわゆる兼任問題を取り上げ、次のような解釈指針を明らかにした。
すなわち、「遺言執行の内容に裁量の余地がある場合は、相続人の代理人にはなれないが、遺言執行者の職務内容が裁量の余地のない場合は、弁護士は、一部の相続人の代理人になっても、新規程28条3号の「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」には該当しない」としたのである。
日弁連・総会の決議は、すなわち、弁護士の総意である。
弁護士の総意は、遺言執行者を相続人の代理人だという21世紀の天動説を否定したのである。
(2)遺言執行の内容に裁量の余地がある場合とない場合の意味
では、日弁連・倫理委員会のいう、「遺言執行の内容に裁量の余地がある場合」また「遺言執行者の職務内容が裁量の余地のない場合」とは、どのような場合かというと、次のとおりである。
ア 裁量の余地がある遺言事項
意味:遺言執行者の裁量しだいで、相続人が取得できる遺産が増減する遺言事項のことをいう。
例:
①相続分の指定の委託
②遺産分割方法の指定の委託
理由:相続分の指定の委託や遺産分割方法の指定の委託遺言の場合、相続分の指定や遺産分割方法の指定は、遺言執行者に託されたのであるから、遺言執行者の裁量権が働く遺言事項になるからである。
イ 裁量の余地のない遺言事項
意味:遺言執行者の裁量が入る余地のない遺言事項
例:
相続分の指定
遺産分割方法の指定
遺贈
推定相続人の廃除
認知
これらの遺言事項は、遺言執行者にするしないの自由は認められず、遺言執行者は必ずしなければならないものであるので裁量の余地のない遺言事項であることは明らかである。
(3)新規程の解釈を13年議決事件に適用すると
そこで、日弁連・倫理委員会が明らかにした新規程28条3号の解釈を13年議決事件に適用してみると、13年議決事件の遺言内容は「全遺産を相続人Aに相続させる。」というもの(これは「相続分全部の指定」であり同時に「全遺産の遺産分割方法の指定」遺言)、すなわち、遺言執行者の裁量の余地のない遺言であったので、甲弁護士が遺言執行者と受遺相続人Aの代理人を兼任したことは、「依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」を行ったことにはならないものであった。
つまり、13年議決は間違った解釈をして甲弁護士を懲戒処分にしたことが明らかにされたのである。
では、日弁連懲戒委員会は、この日弁連規則の改正に従うことになったのかというと、そうはならなかった。
以下は、次号で・・・