遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで⑩
第3 節 遺産分割
相続法の第3章の第3節は、遺産分割に関する規定を置いています。
最初の規定は、遺産分割の基準を定めた下記規定ですが、この中に1か条、平成30年の改正法で追加された条文(906の2)があります。
【条文】
(遺産の分割の基準)
第906条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
第906条の2 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
【解説】
1 遺産分割の基準
(1)遺産分割の審判をするときの基準
第906条の規定は、裁判所が遺産分割の審判をする場合の基準とすべき考え方を定めたものです。
(2) 相続開始時には存在したが、遺産分割時までに処分された財産についての基準
第906条の2は、平成30年の改正の時に創設された規定です。
この規定は、”存在しない遺産は、分割の対象にはならない"という、改正前の法理が、不公平な遺産分割を強いていたことの反省から新設されたものです。
すなわち、改正前の法理の下では、一部の相続人が、相続開始持から遺産分割時の前までに、相続預金から密かに一定の金額の払戻しを受けたような、「遺産に属する財産が処分された場合」が生じたときは、その払戻しをうけた預金は、”遺産分割時には存在しない"のですから、遺産分割の対象にはならないとされていたのです。
では、遺産分割の対象にならないとされた「処分された財産」がある場合、どういう問題が起きたかといいますと、まず処分をした相続人は満足でしょうが、それ以外の相続人は納得できるものではなく、当然のごとく遺産分割協議や調停は紛糾します。
しかし、遺産分割の審判になると、その問題は付随問題(遺産分割に関連して出てきた問題であるが、遺産分割の審判では扱えない問題)であるから、解決したければ別途、訴訟で解決すべき問題だと突き放されます。
理論的には、まさしくそのとおりですが、それでは、真の解決ができないことから、改正法は、一部の相続人が処分した財産も、他の相続人全員が同意したときは、遺産分割の対象になると定めたのです。