5 寄与分ある相続人の具体的相続分
はじめに
改正相続法の施行
平成30年7月6日 民法第5編 相続 (以下、「相続法」といいます。)が大きく改正され、改正相続法は、元号が代わった後の本年7月1日から施行されます(ただし、配偶者居住権及び配偶者短期居住権に関する規定は、新元号2年4月1日から)。
そこで、私は、この改正を踏まえた相続法を、分かりやすく、要点を絞って、簡潔に、解説するしだいです。
改正法は、①時代のニーズに応えて新しい制度を設けたもの、②判例を条文にしたもの、③意味を誤解させた条文の文を改めたもの、などからなっていますので、一般の人も、条文を読むだけで、相当程度理解ができるようになっています。
条文を読む(木を見る)
これが、法律を理解する上で、最も近い道です。特に、民法第5編にまとめられた相続法は、民法第1編の総則、第2編の物権、第3編の債権と違って、字句は難解ではなく平易ですので、一読するとよいと思います。
法の大系を知る(森を見る)
ところで、民法は、最も基本の法典であるにもかかわらず、その第5編に書かれた相続法くらい、一般の人に読まれていない法律はないのではないかと思います。
弁護士であっても、相続法は、司法試験の論文試験と口述試験では出題されることのない分野であることから、民法典の中にあるとはいえ、全条文を通読(専門書の通読を含む。)した人は、意外に少ないのではないかと思います。
私がそう思う理由は、改正前の民法1015条が「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」という文で綴られていたことを根拠に、遺言執行者を相続人の代理人であるとする謬説(間違った説。ここでは間違った遺言執行者観)が、弁護士の世界から生まれ、遺言執行者実務を、少なからず混乱させてきたからです。
平成30年になされた相続法の改正では、改正前の民法1015条の文は、誤解を招くという理由で、すべて削除され、新たに「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。」という文に置き換えられましたが、これにより、改正後は、遺言執行者を相続人の代理人であるとする謬説は、やがては消失するものと思われます。
法は、一つの大系をなしています。個々の条文も、法大系の中で、いかなる意味を有するのかを考えて読まないと、木を見て森を見ずの弊に陥ることになりかねないのです。
その意味で、法律を知るには、全条文を読むことが肝要です。
閑話休題
構成
本連載コラムは、平成30年になされた改正後の相続法の章立て、節立ての順で書いていきますが、条文を読むことの重要性を考え、原則として、条文をそのまま紹介して解説し、問題のあるところは【補説】でさらに詳しく解説するというスタイルで構成することにします。
それでもコラムで紹介する条文を、難解だと思う読者は、私の書いた解説を先に読まれると、条文の内容がよく理解できると思います。