交通事故 23 後遺障害① 自賠責が認めなかった後遺障害を認めた裁判例
昭和43年3月15日最高裁第二小法廷判決を照会します。1項及び2項の文は、同判決からの引用文です。
1 原則論
一般に、不法行為による損害賠償の示談において、被害者が一定額の支払をうけることで満足し、その余の賠償請求権を放棄したときは、被害者は、示談当時にそれ以上の損害が存在したとしても、あるいは、それ以上の損害が事後に生じたとしても、示談額を上廻る損害については、事後に請求しえない趣旨と解するのが相当である。
2 例外論
全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に小額の賠償金をもつて満足する旨の示談がされた場合においては、示談によつて被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであつて、その当時予想できなかつた不測の再手術や後遺症がその後発生した場合その損害についてまで、賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。
3 具体的な事例での判断
(1)示談が成立するまで状況
被害者甲は交通事故で、左前腕骨複雑骨折の傷害をうけ、事故直後における医師の診断は全治15週間の見込みであつたので、甲自身も、右傷は比較的軽微なものであり、治療費等は自動車損害賠償保険金で賄えると考えていた。そこで、事故後10日を出でず、まだ入院中に、甲と加害者加入の保険会社間において、保険会社が自動車損害賠償保険金を甲に支払い、甲は今後本件事故による治療費その他慰藉料等の一切の要求を申し立てない旨の示談契約が成立し、甲は右保険金を受領した。
(2)示談後の状況
事故後1か月以上経つてから右傷は予期に反する重傷であることが判明し、甲は再手術を余儀なくされ、手術後も左前腕関節の用を廃する程度の機能障害が残り、それによる損害を受けた。
前記最高裁判決は、1の示談は2の理由で3(2)により生じた損害賠償請求権に影響は与えない旨判示しました。