遺産分割における付随問題⑥ 遺言書の効力問題
1 誰が確定できるのか?
一昨日のコラムに書いた「遺産分割までのプロセス表」を見てください。
遺産分割までに確定・確認しなければならない事は多く,具体的には,
①の遺産の確定,➁の生前贈与財産の確定,③の生前贈与の持戻し免除の有無の確定,④の財産の評価,⑤の寄与分の確定,⑨の「遺贈」の確認,⑩の遺贈の持戻し免除の有無の確定,⑫の遺産分割の対象にする財産の確認,それに⑬の具体的な遺産分割の確定です。
この中で「確認」と書いたものは,争いになることはないものですが,「確定」と書いたものは,相続人全員の合意,合意ができない場合は裁判(判決又は審判)でなければ確定しません。④の財産の評価は鑑定でないと確定しません。
このうち確定を要するものは6項目,評価を要するものは1項目あります。
そのいずれか1項目にでも紛争が生ずれば,話合いは停滞します。
これは調停でも同じです。
では,争いが生じたこれら確定又は評価すべき事項について確定又は評価をなし得る者は誰かといいますと,①の遺産の確定は遺産分割手続とは別の訴訟手続における判決を下す裁判所です。それ以外の確定は遺産分割手続を進める家事審判官です。財産の評価は専門家です。
2 ある遺産分割調停事件の紹介
ごく最近のことですが,私は,調停と遺産確認訴訟で10年近い歳月を費やした一人の相続人の依頼で,遺産確認訴訟で遺産の確定ができたことから,再度遺産分割の調停を申し立てたいという依頼を受け,調停の申立てをしました。
そして,私は、第一回調停期日で,今度の申立て事件については,審判をするか,家事審判官の手で調停を進めか,いずれかの方法で遺産分割をしていただきたいと希望を伝えましたところ,家事審判官が調停を進めることを承知してくださり,以後,家事審判官主導の下で調停が進められ,1年後に調停が成立したという経験をしました。
実は,この件は,それまでに遺産確認訴訟の判決の確定による①の「遺産の確定」と公認会計士による④財産の評価はできていましたので,後の確定を要する事項は全部家事審判官で確定できるものばかりだったのです。
そのこともあり,また,いわゆる付随問題には入らず,争いのあった項目については家事審判官が審判でならこういう判断をするという意見を表明され,それでもって全相続人を説得されたことが,迅速な遺産分割につながったように思われます。