相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権に関する判例紹介)
家事審判官
「次に進みますが,生前贈与か窃盗かで揉めている問題もあるようですが,どういうことでしょうか?」
乙
「母は,過去に1Kgの金地金3個を所有していたのですが,亡くなった後金庫を開けると2個しかありませんでした。甲に聞くと1個は生前贈与を受けたというのです。しかし,母が私や丙に相談もせず500万円近くもする金地金を甲に生前贈与したとは思えません。甲が生前贈与を受けたと言っている1個は盗んだものに違いないので,それを遺産の中に返せといっているのですが,返してくれないのです。そこで,甲が持っている金地金1Kgが生前贈与を受けたものか,甲が盗んだものかで争いになっているのです。」
家事審判官
「その議論には,実益がありそうもないですね。」
乙
「何故ですか?」
家事審判官
「甲が持っている金地金が生前贈与であっても,盗んだものであっても,乙や丙が遺産分割で取得できる額に変わりはないからです。なぜなら,各相続人が遺産分割で取得できる額(「具体的相続分」といいます。)は,遺産と生前贈与を加えた額から割り出しますので,生前贈与を受けた相続人は,生前贈与を受けない相続人に比べ,生前贈与分だけ,具体的相続分が少なくなるからです。これを遺産が金地金2個だけだと前提にして,甲乙丙3名の具体的相続分を算出すると,
甲の具体的相続分=(遺産である金地金2Kg900万円+生前贈与金地金1Kg450万円)÷3-生前贈与分450万円=0
乙及び丙の具体的相続分=(遺産900万円+生前贈与450万円)÷3=450万円
になりますが,遺産は金地金2個900万円だけで,1個は450万円ですから,これらは乙と丙が1個ずつ取得できます。甲は生前贈与を受け具体的相続分は0ですから,遺産分割で取得できるものはありません。
しかし,甲は生前贈与として金地金1個をもらっているので,遺産と生前贈与を合わせた財産からは,甲,乙,丙3名とも金地金1個ずつ取得できているのす。。
この,生前贈与分を計算上遺産の中に戻す計算のことは「生前贈与の持戻し」といわれますが,被相続人が特定の相続人に生前贈与をしていたとしても,多くの場合,他の相続人は,その分具体的相続分が多くなるので,必ずしも不利になるものではないのです。」
他にも「遺贈の持戻し」がある。