後見人や特別代理人の身分の確認をしたい場合の、執るべき処置
家事審判官
「私は,家事審判官のAといいます。この件は,使途不明金の存否を巡る争いのために調停成立の見込みがない,という理由で,私の方に回ってきました。そこで,私が暫くの間,単独で調停を進めさせていただきます。調停の成立が困難だと思ったときは,審判手続に移し,審判で遺産分割をする予定です。よろしくお願いいたします。
最初に,確認しておきますが,この件は,
被相続人 母
遺言書 ない
相続人 甲 乙 丙
法定相続分 1/3 1/3 1/3
で間違いありませんか?
甲・乙・丙
「はい。間違いありません。」
家事審判官
「使途不明金が問題になっているようですが,どなたが問題にされているのですか?」
乙
「私です。母が亡くなるより5年前に,母名義の預金口座から,甲が母に無断で,600万円をも引き出していますので,甲はこの金額を遺産の中に返金するべきです。」
甲
「冗談じゃない。私はそんなことはしていない。」
乙
「甲以外に,母の預金口座からお金を引き出すことができた者はいないはずだ。」
家事審判官
「そのような意味の使途不明金ならば,遺産分割の対象にはなりませんので,そのための話合いは無意味ですよ。」
乙
「何故ですか?母の遺産になるべき預金が,甲に勝手に使い込まれているのですから,その問題も解決してもらわないと,遺産分割はできません。」
家事審判官
「遺産分割は,『被相続人が亡くなった時(相続開始の時)にあった財産』が対象になるものですから,“それより前にはあったが相続開始時には存在していない財産”は遺産分割の対象にはなりません。
乙
「そうであれば,甲が母の生前,母に無断で引き出して使い込んだ600万円については,母は甲に対しその返還を求める権利があるはずだから,甲に対する600万円の返還請求権は相続開始時の財産になるのでは・・・。」
家事審判官
「仮に,甲に対する600万円の金銭請求権(債権)が相続開始時の財産になるとしても,債権は各相続人が相続分で分割して承継しているというのが判例の見解ですので,遺産分割の対象にはなりません。」
乙
「では,家事審判官は,私(乙)や丙に,泣き寝入りせよということですか?」
家事審判官
「いいえ。あなたの言われる権利があるとすれば,あなたは,その三分の一である200万円の債権を,相続で取得していますので,その権利は行使できますよ。しかし,その債権の存否について争いがある場合に,解決できる方法と管轄裁判所は,訴訟であり地方裁判所です。家庭裁判所ではありません。」
丙
「家事審判官の言われることは納得できる。私(丙)は,甲に使途不明金に関して責任があるとは思っていない。乙が使途不明金につき甲に対し責任を追及したいというのなら,勝手にやってくれればよい。しかし,それを遺産分割調停の中でするのは反対だ。私には全く利害関係の無い,使途不明金という問題で,甲と乙が口角泡を飛ばして議論をするため,肝心の遺産分割ができないでいる。もうこれ以上,時間を空費しないようにしてほしい。」
乙
「・・・・」
家事審判官
「乙さんにも,ご理解いただいたと思います。今後,使途不明金問題は一切しないように,お願いいたします。