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遺言執行者⑬財産調査などの相続人の要求に応える義務があるか?

菊池捷男

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テーマ:相続相談

1,民法の規定
 民法は,遺言執行者の職務権限に関しては,民法1011条から1014条までの規定を置いているだけですが,この中に,相続人の義務として,民法1013条が「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」という規定を置いています。
ですから,遺言執行者と相続人の関係は,相続人には,遺言の執行の妨害行為の禁止義務があるだけで,相続人が遺言執行者に対し,相続財産の調査を求めるなどの権利を有することはありません。

2,誤解
 しかしながら,遺言執行実務の場面では,遺言執行者を相続人の代理人であると誤解することから,遺言執行者は相続人の要求には従う義務があると誤った見解を有する人がいて,遺言執行者にしばしば法的義務のない要求をしてくることがあります。

3,条文を並べてみる
(相続財産の目録の作成)
第1011条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
(遺言執行者の権利義務)
第1012条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
(特定財産に関する遺言の執行)
第1014条 前3条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
(遺言執行者の地位)
第1015条 遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。

4,誤解の元
 遺言執行者は相続人の代理人であるから,遺言執行者は相続人の求めることに従う義務があるとの誤解の元は,民法1015条の「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」という規定の存在です。
 この規定を文字どおり読むと,遺言執行者は相続人の代理人ということになりますが,この規定の趣旨は,遺言執行者のした遺言執行の法律効果は相続人に帰属するというものであって,遺言執行者を相続人の代理人にする規定ではありません(この点は学説上争いはなく,判例もこれを当然の前提にしています。)。したがって,この規定を根拠に,相続人が遺言執行者の何らかの行為をすることを請求することはできないのですが,意外に,上記のような誤解が多いのです。

5,誤解に基づく,相続人から遺言執行者への要求の例
(1)被相続人の相続財産目録を作成して,相続人に交付することの要求
このような権利のないことは,すでに本連載コラムで解説したところです。
(2)財産調査の要求
これは遺言が「全財産を相続人甲に相続させる。」などの遺留分権利者の遺留分を侵害するような遺言の場合に,遺留分権利者である相続人から,前記相続財産目録の交付の要求の後で,もっと他に財産があるはずだ。それを調査してくれ,という形で,要求されることが多いのです。むろん,遺言執行者には,相続人からの要求に応える義務はありません。

 平成7年10月3日名古屋家庭裁判所審判がいうように,「遺言執行者とは,遺言が効力を生じた後にその内容を実現するのに必要な事務を執行すべき者」で,「遺留分権利者である相続人が遺留分減殺をするために相続財産の全容を知る必要のあることは理解できるが,それは困難な作業であるにしても,遺留分減殺請求権を行使する相続人自身が調査して,立証すべきものである。本件遺言の趣旨と逆の立場にある申立人が,遺言の執行と関係のないことを遺言執行者に求め,これをしないからといって任務違背とすることはできないもの」なのです。

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菊池捷男
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菊池捷男(弁護士)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

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