相続と登記 9 遺留分減殺請求と登記
1,遺言執行者制度の目的
遺言執行者制度は,遺言者のための制度です。遺言者が人生最後の意思を遺言書に書き,その実現を遺言執行者に託したのですから、遺言執行者は、どんな困難があっても、その遺言書の中に書かれた遺言者の意思を実現してあげなければなりません。それが遺言執行者制度の目的です。
ですから、遺言執行者がなすべきことは、民法1012条1項に書かれている「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為」です。
参照
(遺言執行者の権利義務)
第1012条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 第644条から第647条まで及び第650の規定は、遺言執行者について準用する。
(筆者註:民法1012条2項は委任に関する条文の準用規定)
2,遺言執行者の権利と義務は具体的なものであって、抽象的なものではないこと
遺言執行者は、遺言書に書かれた遺言者の意思を実現する者ですので、遺言執行者の権利と義務は、自ずと、遺言書の内容によって定まります。遺言書に書かれていないことをする権利と義務はありません。
【違法な遺言執行例】
実際にあった例ですが、「遺言者甲は、甲所有の自動車を弟の乙に遺贈する。」と書かれた遺言書の遺言執行者になった弁護士が、その自動車を売却して、売却代金を乙に交付したことがありました。
これは明らかに違法な遺言執行でした。遺言者の意思は、自動車を弟に遺贈するというものであり、自動車を売却してその代金を乙に交付するというものではなかったからです。遺言執行者がすべきであったことは、自動車を乙に引き渡し、自動車の名義を甲から乙に移転する手続でした。