相続と登記 9 遺留分減殺請求と登記
Q 預貯金は,遺産分割をしないでも,相続開始と同時に分割され,各相続人は,その法定相続分に相当する金額分だけ,直接債務者に請求できる可分債権であると聞いていますが,株式や投資信託受益権や国債も,可分債権ですか?
A いいえ。そうではありません。
最高裁判所平成26年2月25日判決は,
①株式は,株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味し,株主は,株主たる地位に基づいて,剰余金の配当を受ける権利(会社法105条1項1号),残余財産の分配を受ける権利(同項2号)などのいわゆる自益権と,株主総会における議決権(同項3号)などのいわゆる共益権とを有するのであって(最高裁昭和45年7月15日判決),このような株式に含まれる権利の内容及び性質に照らせば,共同相続された株式は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである(最高裁昭和45年1月22日判決)。
➁-1投資信託受益権のうち委託者指図型投資信託(投資信託及び投資法人に関する法律2条1項)に係る信託契約に基づく受益権は,口数を単位とするものであって,その内容として,法令上,償還金請求権及び収益分配請求権(同法6条3項)という金銭支払請求権のほか,信託財産に関する帳簿書類の閲覧又は謄写の請求権(同法15条2項)等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定されており,可分給付を目的とする権利でないものが含まれている。このような上記投資信託受益権に含まれる権利の内容及び性質に照らせば,共同相続された上記投資信託受益権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。
➁-2 また,外国投資信託に係る信託契約に基づく受益権である外国投資信託は,外国において外国の法令に基づいて設定された信託で,投資信託に類するものであり(投資信託及び投資法人に関する法律2条22項),上記投資信託受益権の内容は,必ずしも明らかではないが,外国投資信託が同法に基づき設定される投資信託に類するものであることからすれば,上記投資信託受益権についても,委託者指図型投資信託に係る信託契約に基づく受益権と同様,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものとする余地が十分にあるというべきである。
③個人向け国債の発行等に関する省令2条に規定する個人向け国債は,個人向け国債の額面金額の最低額は1万円とされ,その権利の帰属を定めることとなる社債,株式等の振替に関する法律の規定による振替口座簿の記載又は記録は,上記最低額の整数倍の金額によるものとされており(同令3条),取扱機関の買取りにより行われる個人向け国債の中途換金(同令6条)も,上記金額を基準として行われるものと解される。そうすると,個人向け国債は,法令上,一定額をもって権利の単位が定められ,1単位未満での権利行使が予定されていないものというべきであり,このような個人向け国債の内容及び性質に照らせば,共同相続された個人向け国債は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。
と判示しているところです。
ですから,これら可分債権ではない債権の最終的な帰属は,遺産の分割によって決せられることになります。