不動産 オフィスビルの場合は,通常損耗の原状回復義務があるのか?
Q 不動産登記法が改正された後は改正される前と比べて,不動産の二重譲渡のリスクが高まった,ということを聞きましたが,どういうことですか?
A 不動産登記法は,平成16年に改正になり,平成17年3月7日から施行されていますが,改正前は,所有権移転登記手続をするには,登記義務者(売買の場合は売主)本人確認のために,いわゆる権利証といわれた登記済証を提出することになっていました。しかし,改正法では,登記済証ではなく,登記識別情報を提供すればよいことになっており,登記済証の提出は必要とされなくなりました(ただし,不動産登記法附則7条により,登記済証(登記原因証書)を提出すれば,登記識別情報の提供がされたものとみなされることになっていますので,今でも,多くの場合登記済証が提出されています。)。
登記識別情報とは、登記名義人が登記を申請する場合において、当該登記名義人自らが当該登記を申請していることを確認するために用いられる符号その他の情報であって、登記名義人を識別することができるものをいう(不動産登記法2条14号)とされていますが,登記識別情報については,不動産登記法21条で,「登記官は、その登記をすることによって申請人自らが登記名義人となる場合において、当該登記を完了したときは、法務省令で定めるところにより、速やかに、当該申請人に対し、当該登記に係る登記識別情報を通知しなければならない。ただし、当該申請人があらかじめ登記識別情報の通知を希望しない旨の申出をした場合その他の法務省令で定める場合は、この限りでない」という規定があり,これは,登記済証とは異なり、単に、新たに不動産の所有者等となった者が、登記所に対し申請を行った際通知されるにすぎない情報ででしかなく,しかも,その登記識別情報の提供がなくとも,登記の受付がなされるようになったので,それだけ,本人以外の者が,所有権移転登記をしても受け付けられるリスクが高まったということになります。
要は,改正前の所有権移転登記手続には,物理的に1つしかない登記済証の提出があったので,それを提出した者を所有者として扱っても,多くの場合間違うことは起こらなかったが,改正法の下では,物理的に唯一というものではない(物理的唯一性がない)たんなる登記識別情報を提供した者,しかも,提供しない場合もあるので,その場合は登記識別情報すら提供しない者が,本人として扱われる結果,本人以外の者が本人になりすまして,売主になるリスクが大きくなったということです。
そのリスクを避けるためには,売主の本人確認が重要になります。
その方法は,明日のコラムに書きます。