相続と登記 9 遺留分減殺請求と登記
Q 老齢の父のことが心配です。父はかなりの資産を有しており、自分の死後それを妻子にどう分けるかを考え、遺言書を作成しているのですが、最近認知症の傾向が出、昔付き合いのあった女性に懇願されて言われるまま遺言書を書いてその女性に渡したが、何を書いたのかを覚えていない、その遺言書を破棄したい、ということを父から聞きました。
そこで、その遺言書を破棄する方法と今後父が騙されて遺言書を書かされなくする方法を教えてください。
A
1,遺言書を破棄する方法について
遺言書を破棄したいというのは、すでに書いた遺言書を無効にしたいということだと思いますが、民放1022条は「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」と規定していますので、すぐに「過去に書いた遺言はすべて撤回する。」という遺言書を書けば、その日より前に書いた遺言書は無効にできます。」
また、民法1023条は「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。」という規定もありますので、前に書いた遺言書と抵触する内容の遺言書を書くことで、前に書いた遺言書を無効にすることもできます。
2,騙されて遺言書を書かされなくする方法
⑴ 被後見人になりうる場合
お父さんが認知症になっているということですので、後見人をつけることが可能ならそうすべきです。何故かといいますと、民法973条1項で「成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師2人以上の立会いがなければならない。」、2項本文で「遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。」という規定があるので、騙して遺言書を書かさす側の者としては、2人以上の医師の協力なしには遺言書を書かすことはできないからです。
⑵ 被保佐人、被補助人になりうる場合
後見ではなく、保佐、補助の制度が利用できる程度の能力のある人の場合は、保護する方法はありません。
すなわち、同じ法律行為であっても、売買や贈与などの通常の取引行為の場合は、被保佐人、被補助人がするときは保佐人、補助人の同意が必要になり、同意なく法律行為をすると取消すことができますが、遺言書の作成の場合はそれができません。民法962条が「第5条、第9条、第13条及び第17条の規定は、遺言については、適用しない。」と規定しているからです。