遺言執行者⑭遺留分減殺請求先に要注意
Q 昨年、父が亡くなり、相続人は私と兄の2人だけですが、最近兄が相続財産である土地(田)を宅地にして、家を建てました。私が抗議をしたところ、兄は、兄には、相続財産である土地につき相続による共有持分(2分の1)を有しており、共有者として土地を使用する権原があるから、文句を言われる筋はないというのですが、兄の言い分は正しいものなのですか?
A 相続財産は、相続人の共有の財産であり、共有者には、共有権に基づいて、共有物を使用収益する権限があることは、お兄さんの言うとおりですが、田を埋め立てて宅地にする行為は、他の共有者の同意が必要ですので、あなた(弟)の同意を得ないで、お兄さんが、田を宅地にした行為は違法です。
すなわち、最高裁判所平成10年3月24日判決は、遺産分割前の遺産共有の状態にあ畑につき、相続人の1人が、土砂を搬入して地ならしをする宅地造成工事を行って、これを非農地化した事件で、「共有者の一部が他の共有者の同意を得ることなく共有物を物理的に損傷しあるいはこれを改変するなど共有物に変更を加える行為をしている場合には、他の共有者は、各自の共有持分権に基づいて、右行為の全部の禁止を求めることができるだけでなく、共有物を原状に復することが不能であるなどの特段の事情がある場合を除き、右行為により生じた結果を除去して共有物を原状に復させることを求めることもできると解するのが相当である。けだし、共有者は、自己の共有持分権に基づいて、共有物全部につきその持分に応じた使用収益をすることができるのであって(民法249条)、自己の共有持分権に対する侵害がある場合には、それが他の共有者によると第三者によるとを問わず、単独で共有物全部についての妨害排除請求をすることができ、既存の侵害状態を排除するために必要かつ相当な作為又は不作為を相手方に求めることができると解されるところ、共有物に変更を加える行為は、共有物の性状を物理的に変更することにより、他の共有者の共有持分権を侵害するものにほかならず、他の共有者の同意を得ない限りこれをすることが許されない(民法251条)からである。」と判示しているのです。
ただし、この判決は、「もっとも、共有物に変更を加える行為の具体的態様及びその程度と妨害排除によって相手方の受ける社会的経済的損失の重大性との対比等に照らし、あるいは、共有関係の発生原因、共有物の従前の利用状況と変更後の状況、共有物の変更に同意している共有者の数及び持分の割合、共有物の将来における分割、帰属、利用の可能性その他諸般の事情に照らして、他の共有者が共有持分権に基づく妨害排除請求をすることが権利の濫用に当たるなど、その請求が許されない場合もあることはいうまでもない。」と判示して、農地を非農地にした共有者相続人には、原状回復義務があるが、ケースによっては、その者に原状回復をさせることが権利の乱用になる場合もあるとの認識も示しています(この事件そのものは、審理を尽くさせるため、原審に差し戻されました)。