遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
一四 直ちに・遅滞なく・速やかに
これらの言葉は、速さを表す法令上の言葉です。
1 速さの順位
この3つの言葉の意味は、いずれも「速く」という意味ですが、その速さに違いがあります。
2 直ちに
この意味は「即時に」という意味です。いかなる理由をもってしても遅らせてはならないという響きのある言葉です。
憲法34条前段は「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。」と規定していますが、ことの重要性が分かる規定です。ニュアンス的には、一、二時間以内ということでしょうか?
3 速やかに
この言葉は「できるだけ速く」という意味ですが、「すみやかに速く」という言葉が、どのくらいの期間を想定したものかが明確ではないところから、刑罰法規にこの言葉を用いるのは適当ではないとの批判がありました。
すなわち、銃砲刀剣類所持等取締法17条は、かつて、「登録を受けた刀剣を譲り受けるなどした者は、速やかに教育委員会に届出しなければならない。」という規定があり、また、これに違反すると20万円以下の罰金に処せられるという規定があったのですが、速やかに届出をしないと刑罰に処せられる、という規定は、具体的に何日以内に届出なければならないのかが明確でないので、罪刑法定主義に違反するという批判がありました。そこで、その後、この規定の「速やかに」は、「20日以内に」に改正されました。
そのような敬意もあり、現在、この言葉は、ほとんど、訓示的な意味で使われています(速やかでなかったとしても制裁を受けない)。ですから、速やかに、という言葉は、数日以内又は数十日以内というニュアンスのある言葉になっています。
4 遅滞なく
この意味は「合理的理由があればその遅れは許される程度の速さ」を意味します。
民法853条1項は「後見人は、遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し・・・」と規定していますが、この意味になります。ニュアンス的には、数ヶ月以内でしょうか?