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新著予定 七 節税・脱税・租税回避

菊池捷男

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節税・脱税・租税回避という言葉は、法令用語ではありません。一般用語ですが、ここに解説しておきます。

1 節税
 節税とは、それを利用すれば税金が安くなる、あるいは課税が繰り延べになるという納税者に有利になる制度を利用することです。
 例えば、所有期間が5年以内の資産を譲渡した場合の短期譲渡所得はその全額が所得税の課税標準(課税標準の意味は別のコラム参照)になり、所有期間が5年を超えている場合の長期譲渡所得はその1/2が課税標準になります(所得税法22条2項2号、33条3項2号)ので、所有期間が5年を超える状況になるのを待って資産を譲渡すると、税金は半分になります。また、土地を収用され補償金を得た場合、そのお金で一定の資産を買えば、課税が繰り延べになります(租税特別措置法33条等)ので、この買換制度を利用して買換え資産を購入すると、そのときは税金がかからないか安くなります(しかし、この場合は、税金の繰り延べでしかありませんので、後、別の形で税額が増えるので、それを選択するのがよいかどうかは考え物ですが)。このようにして、既存の税制度を利用して、税金の額を減らしたり、納めなくする方法を節税というのです。
注:なお、不動産の譲渡所得にかかる所得税は、分離課税になっているところから、譲渡所得税という言い方をした方が分かりやすいので、税理士さんですら譲渡所得税という言い方をしている人が多いのですが、法律上、譲渡所得税という税はありません。この税は、正確に言えば、譲渡所得にかかる所得税です。弁護士たるもの、法律学徒としては、そう表現していただきたいものですが、譲渡所得税の方が言いやすく、分かりやすいのも事実ですし、譲渡所得税と言っても、文句を言う人はいないので、結構譲渡所得税という言い方が通例でしょうか?なお、著者は、間違いのない言い方として、譲渡所得課税という言い方をしています。

2 脱税
 脱税とは、正直に事実を言えば、課税される事実(取引や状況。これを「課税要件事実」といいます)があるのに、課税を避けるため、そのような課税要件事実が無かったかのように装うか、課税額を少なくするために課税要件事実を過小に表示すること、例えば、1億円で土地を譲渡すれば、それに見合う譲渡所得課税がなされるので、5000万円の売買契約書を作るなどです。
 要は、課税要件の全部又は一部を隠蔽することをいうのです。

3 租税回避
 これは、課税要件を隠蔽する脱税ではありません。
また、本来法が予定している節税でもありません。
 租税回避とは、本来予定している法形式ではなく、しかし合法的な法形式をとることで、税負担の回避又は減少を図る行為をいいます。

 例えば、土地を譲渡すれば、売買代金は得られるが、一方で多額の譲渡所得課税がなされるという場合で、それを避けたいと考える土地所有者甲がおり、それに協力する買主乙がいるいとします。
 この場合、土地の売買目的は、買主乙にとっては土地を未来永劫にわたって使用収益すること、売主甲にとっては土地の時価に相当する金額を得ることですので、この目的を達成するには売買契約を結ぶのが最もよい法形式です。
 しかし、売買契約では譲渡所得課税が避けられないので、それを避けるために、合法的な法形式はないかと探すのです。
そして、そのような法形式として、
①土地の賃貸借契約を結ぶことで、乙に土地の使用収益の権限を与える(土地を購入したのと変わらない)。
②金銭消費貸借契約を結ぶことで、甲が土地の時価に相当する金銭を取得する(土地代金の全額が支払われたのと変わらない)。
③ そして、前記経済目的を達成させるため、この2つの契約に様々な特約をつけるのです。例えば、賃貸借期間は超長期(土地を貸主に返還しなくともよい)、①の契約の地代は②の契約の利息と同額として、支払い方法は相殺による(土地の借主から貸主に地代を支払わなくてすみ、また、金銭の借主から貸主に利息を支払わなくてすむ)。契約は甲乙いずれか一方が希望する限り更新する(その関係が未来永劫続くので、不動産売買契約と同じ結果になるが、譲渡所得課税は避けられる)等です。

 なお、租税回避行為については、本当に租税が回避できるのか?という問題がありますが、この問題は、事案ごとに検討すべきことで、一概には言えません。しかし、租税回避行為は、脱法行為であることは明白で、すべきではないでしょう。

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菊池捷男(弁護士)

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