相続と登記 9 遺留分減殺請求と登記
Q 私は遺言執行者になった者です。遺言書の内容は、すべて特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」と書かれた遺言書です。実は、私は、民法1011条の「遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。」という規定に従って、相続財産の作成とその相続人への交付義務があると思い、相続人に財産の開示を要請したのですが、相続人は関係ないと言って協力してくれません。どうすればよいのでしょうか?
A あなたの言われるように、遺言書がすべて特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」と書かれた遺言書であるのなら、遺言執行者には、相続財産目録の作成やそれを相続人に交付する義務はありません。
その理由は、次のとおりです。
ア 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は、特段の事情がない限り、遺産の分割の方法を定めた遺言とされ、当該特定の財産は、遺言執行者の遺言の執行を必要としないで、相続開始と同時に、当該特定の相続人に移転しています(最高裁判所平成3年4月19日判決・いわゆる香川判決)。このような遺言にあっては、遺言執行者には、財産を管理する義務や、これを相続人に引き渡す義務はありません(最高裁判所平成10年2月27日判決)。
イ 遺言執行者が管理しない財産については、民法1011条の目録の作成や相続人への交付義務はありません。ですから、あなたには相続財産目録の作成・交付義務はないのです。
すなわち、民法は、民法1011条に続けて、
民法1012条1項で「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」、民法1013条で「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」、民法1014条で「前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。」と規定していますが、
新版注釈民法(28)補訂版328ページでは、遺言執行者に課される相続財産目録の調整義務(1011)は、・・・相続財産に対する遺言執行者の管理処分権の対象を明確にするとともに(1012)、遺言執行者の相続財産引渡義務(1012Ⅱ・647)・・・を明確にするために、規定されたものであると解説し、また、同358ページでは、財産目録(1011)は遺言執行者が管理する特定の財産についてだけ調製すればよい・・管理処分権(1012)も特定の財産に制限される。・・遺言の対象が物的に制限・特定されている以上、それ以外の財産は、遺言の執行に関係ないからである。と書かれているのです。