相続と登記 9 遺留分減殺請求と登記
1 「相続させる」旨の遺言と登記
例えば、「A宅地は相続人甲に相続させる。」というような、特定の財産を特定の相続人に「相続させる」遺言がある場合、
①相続登記は、当該相続人(例では甲)が単独で行うことができること、
②遺言執行者からの相続登記手続ができないこと、
③ただ、遺言執行者は、甲への所有権移転登記がされる前に、他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には、遺言執行の一環として、右の妨害を排除するため、右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできること
はすでに、別のコラムで、解説したところです。
2 「遺贈する」旨の遺言と登記
⑴受遺者が相続人の場合でも、「遺贈」登記
例えば、「A宅地は甲に遺贈する。」というような、特定の財産を特定の者に「遺贈する」と書かれた遺言書の場合は、遺贈の相手、つまり受遺者が、仮に相続人であっても、登記実務では「遺贈」を原因として登記手続がなされることになっています。
仙台高判平10.1.22は、相続人の1人である甲に「遺産全部を包括して遺贈する旨記載された遺言公正証書は、その作成には,法律の専門家である弁護士や公証人が関与しているにもかかわらず,全部包括遺贈であることを明言する遺言がなされていることなどから,その遺言はその文言に従い,全部包括遺贈の趣旨であると解すべきであり,この遺言書によって相続登記をすることは許されない旨判示しています。
⑵ 遺贈登記は共同申請
遺贈を登記原因とする所有権移転登記手続は、受遺者を登記権利者、遺言執行者又は全相続人を登記義務者とする共同申請によりなされます。
3 「取得する」旨の遺言と登記
例えば、「A宅地は甲が取得する。」というような、特定の財産を特定の者が「取得する」と書かれた遺言書の場合は、取得する者が相続人である場合は「相続」による当該相続人の単独申請で、取得する者が第三者である場合は「遺贈」による共同申請で登記をしているのが、登記実務です。