遺言執行者⑭遺留分減殺請求先に要注意
Q 父が遺言を書かず1億円の財産を残して亡くなりました。
相続人は、母と兄と私の3人です。
その直後、父の遺産分割もしないうちに、今度は母が亡くなりました。
母は、自分の預金2000万円を全部兄に相続させる旨の遺言書を書いていました。
その後、私と兄で、父の相続財産と母の相続財産について、遺産分割協議を始めました。
ここで兄の言い分ですが、兄は、
①父の相続財産については、兄も私も特別受益や寄与分はないので、相続財産が1億円であることを前提にして、兄の具体的相続分も私の具体的相続分も5000万円になる。それを基準に父の相続財産を分割しよう。
つまり、
(ア)父の相続財産1億円 → 兄が5000万円、妹の私が5000万円
で分ける。
②母の相続財産については、母の財産が2000万円の預金だけであり、その預金をすべて兄が遺言で取得しているので、遺産分割の対象になる相続財産は残っていない。しかし、私には、遺留分があるので、遺留分割合分1/4の500万円は、兄から私に返還する。
つまり、
(イ)母の相続財産は0、遺産分割なし
(ウ)母の遺贈財産(預金) → 遺留分減殺処理 → 兄が1500万円、私が500万円
になる。
というものですが、そうなのですか?
A いいえ。そうではありません。
お兄さんがする計算方法は間違っています。
①まず、父の相続財産1億円ですが、これは母と兄と私の3人が、それぞれ法定相続分に相当する「遺産の共有持分権」という財産の形で取得しているのです(最判平17.10.11)。「遺産の共有持分権」という考えは、相続財産が全相続人の共有(民法898条)であること、その共有は民法の共有の性格と同じ性格を有する(最判昭30.5.31)ことから導かれるもので、実体上の権利なのです。
ですからお兄さんが計算する(ア)は間違いで、正しくは、
(ア)父の相続財産1億円 → 母が5000万円、兄が2500万円、私が2500万円に相当する遺産の共有持分権
になるのです。
③次に母の相続財産ですが、これは0ではなく、父の遺産の共有持分権1/2が相続財産になります。
つまり、
(イ)母の相続財産は、父の遺産の共有持分権1/2(評価額5000万円)
になるのです。
ですから、兄と私は、これの遺産分割ができます。そして、その遺産分割では、母が遺言で兄に取得させた預金2000万円が特別受益として持戻し計算をしますので、その結果、兄と私の具体的相続分は、それぞれ1500万円と3500万円になります。
つまり、
(ウ)母の相続財産5000万円 → 遺産分割 → 兄が1500万円、私が3500万円
全体から見ると、
あなたの場合、残された財産は父の1億円ですが、これを
兄は(ア)の2500万円 + (ウ)の1500万円=4000万円
私は(ア)の2500万円 + (ウ)の3500万円=6000万円
の具体的相続分で分けることになるのです(最判平17.10.11参照)。
なお、最初の相続つまり第1次の相続では相続人であった者(あなたの例では、母)が、第2次の相続では被相続人になる相続を、「再転相続」といいます。