交通事故 21 逸失利益⑫ 定期金賠償は認められるか?
1 意味と要件
運行供用者とは、「自己のために自動車を運行の用に供する者」であるが、これが認められるには、加害車両に対する運行支配と運行利益を必要とする。運行支配があるだけで、運行供用者性を認めるべしとの説もある。
⑴ 運行支配
運行支配とは、社会通念上、自動車の運行に対し支配を及ぼすことのできる立場にあると評価できる場合である。
⑵ 運行利益
運行利益とは、加害車両が運行されることにより外形上利益を得ていると評価される場合である。
2 運行供用者の具体例
⑴ 車を盗んで運転している者
運行支配と運行利益がその者にある、からである。
逆に、車を盗まれた所有者は、運行供用者ではない(最判48.12.20)。
車が盗まれたことにより、運行支配も運行利益も失ったからである。
⑵ 管理のミスが原因で車を盗まれた所有者
裁判例(最判昭57.4.2・東京地判平20.2.4)がある。
この場合、運行供用者は盗んだ者と盗まれた者双方になる。
⑶ 従業員が使用者の車を無断で運転した場合の使用者(所有者)
最判昭39.2.11。ただし、事案により否定される裁判例(最判昭49.12.6)がある。
この場合は、従業員も運行供用者になる。
⑷ リース会社
運行供用者ではない(神戸地判平3.9.4)。
⑸ レンタカー会社
原則として、運行供用者にはならないが、貸主の貸主に対する拘束が強い場合、貸主に運行供用者責任を認めた裁判例(最判昭46.11.9)がある。
⑹ レンタカーの借主
当然、運行供用者になる。
なお、レンタカーの同乗者は、原則として運行供用者にはならないが、同乗者も借主と交代で自動車を運転する場合は、運行供用者になる。
⑺ 好意で自動車を貸した者
運行支配の有無により、運行供用者性を認めた裁判例と否定した裁判例がある。
なお、借主が貸主に無断で自動車を転貸した場合の、無断転借人が起こした事故については、貸主に運行供用者性はないとする裁判例(大阪地判昭62.5.29)がある。
⑻ 従業員がマイカーを会社の業務に使っていたことを黙認していた使用者
この場合は、判例は、使用者に、従業員の通勤途中のマイカーによる事故について運行供用者性を認めている(最判平元.6.6)。
⑼ 代行運転の委託者と代行運転者
最判平9.10.31は、双方に運行供用者性を認めた。
なお、この判決は、代行運転委託者Aが、代行運転会社Bの従業員Cの運転する自己所有の車に同乗していた時に起きた事故で、代行運転会社に対して、自賠法3条による、運行供用者責任を追求できることを認めた。つまり、この場合、この判決は、自動車の所有者を、自賠法3条の「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。」との規定の「他人」として扱ったのである。
つまり、自動車の所有者Aが、対人賠償保険に入っている場合、本来なら、運行供用者である自分が、その自動車の事故で、その保険から、対人賠償保険金の支払いを受けることができないのに、この場合は、代行運転会社Bが、運行供用者とされ、Aは他人とされる結果、対人賠償保険の支払を受けることができるのである。
なお、他人性に関しては、別コラムで解説予定。
⑽ 名義貸与者・名義残り
事案により、運行供用者性が認められた裁判例と否定された裁判例があるが、運行供用者性を認めた裁判例が多いので、安易に名義人になるなかれ、であろう。