交通事故 23 後遺障害① 自賠責が認めなかった後遺障害を認めた裁判例
1 消滅時効期間
損害及び加害者を知ったときから3年間である。
すなわち、交通事故による損害賠償請求権は、交通事故という不法行為を原因とする権利であるので、民法724条により「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間」で時効により消滅する。
では、具体的には、いつから3年間か?
2 通常傷害に関する権利については、事故の日か翌日か?
本連載コラムで、交通事故による損害賠償請求権については、事故の日から遅延損害金がつくことを説明したが、3年間という時効期間も、当然事故の日から進行する。
では、事故の日のちょうど3年後に訴訟を起こした場合は、時効が完成しているのか?
最判昭57.10.19は、昭和45.12.1に発生した交通事故に関して、昭和48.12.1に提起された損害賠償請求事件で、「3年の時効期間は、・・・右の時効期間の計算についても、民法138条により同法140条の適用があるから、損害及び加害者を知った時が午前零時でない限り、時効期間の初日はこれを算入すべきではない」と判示し、この事件では、消滅時効を完成していないとした。交通事故が丁度午前0時に発生するということは通常ありえないので、交通事故による損害賠償請求権は、事故の翌日から、消滅時効期間が進行すると理解すべきことになる。
つまりは、損害賠償請求権についての遅延損害金は事故の日から発生するが、消滅時効期間は事故の日の翌日から数えることになる。
3 後遺障害に関する権利を「知った時」とは、症状固定の日か自賠責保険の等級認定の日か?
これは、後遺障害の症状固定日である。
自賠責保険から後遺障害の等級認定を受けた時ではない。
症状固定日の後、自賠責保険より後遺障害非該当とされたので、これに異議を申立て、異議が認められて後遺障害の等級認定を受けた事件で、
最判平16.12.24は、被害者が、「後遺障害等級の認定を受けるまでは,当該後遺障害に基づく損害賠償請求権を行使することが事実上可能な状況の下にその可能な程度にこれを知っていたということはできないから,被上告人の本件後遺障害に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,上記等級認定がされた時以降であると解すべきである、と主張したが、これを一蹴し、
「遅くとも症状固定の診断を受けた時には,後遺障害の存在を現実に認識し,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害の発生を知ったものというべきである。自算会(当時)による等級認定は,自動車損害賠償責任保険の保険金額を算定することを目的とする損害の査定にすぎず,被害者の加害者に対する損害賠償請求権の行使を何ら制約するものではないから,上記事前認定の結果が非該当であり,その後の異議申立てによって等級認定がされたという事情は,上記の結論を左右するものではない。」と判示し、この件は、症状固定日から3年経過した後に訴訟を起こしているので、被害者の後遺障害に関する権利は時効により消滅したとされた。
4 結論
通常傷害に関する損害賠償請求権及び死亡による損害賠償請求権は、事故の日から3年間、後遺障害に関する権利は、症状固定の日から3年間が、消滅時効期間になる。ただし、時効期間はいずれも初日不算入でカウントされる。