交通事故 21 逸失利益⑫ 定期金賠償は認められるか?
1 民法711条と判例
民法711条は、死亡事故については、被害者の父母、配偶者及び子に限って、固有の慰謝料請求権を認めている。後遺症については、規定はない。しかし、判例は、古くから、後遺障害事故で、近親者が「死亡に比肩するような精神的苦痛を受けた場合」には、近親者にも、慰謝料請求権を認めている(最判昭33.8.5)
2 裁判例
⑴ 1級について
・横浜地判平12.1.21は、植物状態(1級)になった症状固定時8歳の女児(事故日平5.4.20)について、本人の傷害慰謝料400万円、後遺症慰謝料2800万円の他に、母に800万円の慰謝料を認めた。この母は未婚の母で、1人娘の成長を生き甲斐にしていたのが、①娘の将来の夢奪われ、②自分が死ぬまで子を看護することになり、③母の死後の子の将来に不安を抱くというものであったので、それを慰謝する金額として800万円が認められたのである。
・横浜地判平14.9.25は、凶暴性を伴う高次能機能障害を負った主婦に2800万円、近親者4名に合計800万円合計3600万円の慰謝料を認めた。
これらの事件は、後遺障害1級であるので、その被害は、近親者にとって死にも比肩し得る後遺障害と言える。1級の後遺障害の場合、近親者の慰謝料は広く認められているが、2級以下の後遺障害についても、次のとおり、近親者に固有の慰謝料を認めた裁判例がある。
⑵ 2級
高次脳機能障害の主婦(2級)の夫に300万円、子2人に各100万円、本人に2300万円、合計2800万円を認めた神戸地判平18.6.16等、高次脳機能障害の被害者の場合が多い。高次脳機能障害の被害者の場合は、人格が一変するほどの変化を見せるので、介護の労、家族の悲しみは、大きく、近親者にとっては、死にも比肩することのできる精神的苦痛が強いられることによる。
⑶ 3級以下7級まで
近親者固有の慰謝料が認められるのは、被害者が高次脳機能障害が残ったケースが多いが、それ以外でも、近親者にとって、死にも比肩できる後遺障害ならば、慰謝料が認められる。7級の後遺障害で、近親者に慰謝料を認めた例として、72歳の主婦が左下肢短縮による歩行障害の後遺障害を負ったケースで、本人に800万円、その夫に100万円の慰謝料を認めた横浜地判平6.6.6がある。82歳の夫にとっては、死にも比肩し得る妻の後遺障害なのである。