交通事故 21 逸失利益⑫ 定期金賠償は認められるか?
1 意味
後遺症慰謝料は、通常の傷害による慰謝料を含まない、後遺症のみを対象に支払われる慰謝料である。後遺症が残った被害者には、後遺症の症状が固定するまでの間は、傷害慰謝料が支払われ、症状固定後は、後遺症慰謝料が支払われるのである。
2 慰謝料請求権者
⑴ 被害者本人
⑵ 近親者 ・・・被害者が死にも比肩し得る後遺症を負った場合、近親者固有の慰謝料が認められている。
3 基準額と増額原因
これは死亡慰謝料と同じである。
特に、後遺症の場合、後遺障害等級表に該当する後遺症が複数生ずる場合もあり、その場合は、後遺症の併合により、等級が上がる場合もあるが、そうでない場合もあり、同じ1級の後遺症でも精神的苦痛には差が生ずる。
裁判では、後遺症が複数ある場合や、近親者に固有の慰謝料が認められる場合等では、基準額が増額されている。
4 いわゆる赤い本の基準額と基準額が増額された裁判例(裁判例は赤い本2012年版から引用)
1級 2800万円(裁判例:3780万円、3500万円、4000万円、3800万円)
2級 2370万円(裁判例:2800万円、3100万円、3450万円、3140万円)
3級 1990万円(裁判例:2000万円、2200万円)
4級 1670万円(裁判例:1700万円、1800万円、1750万円)
5級 1400万円(裁判例:1750万円、1450万円、1500万円、1700万円、1600万円)
6級 1180万円(裁判例:1300万円、1400万円)
7級 1000万円(裁判例:1100万円、1200万円、1250万円等)
8級 830万円(裁判例:1000万円、950万円、1200万円、996万円)
9級 690万円(裁判例:700万円、750万円))
10級 550万円(裁判例:560万円、800万円)
11級 420万円(裁判例:500万円、590万円)
12級 290万円(裁判例:550万円、500万円、360万円、400万円、350万円)
13級 180万円(裁判例:300万円、200万円、220万円)
14級 110万円(裁判例:300万円、180万円、150万円、250万円、210万円165万円)
1級の後遺症で、慰謝料3750万円が認められた事件は、痴呆・尿失禁の精神障害(2級2号)+ 視力障害(2級1号)=併合1級の主婦に、本人分3200万円、近親者2名に580万円、合計3750万円が認められたもの(青森地判平13.5.25。)。また、4000万円が認められた事件は、高次脳機能障害(1級)+ 1眼摘出(8級)=併合1級の事故時21歳の女性に、本人分3200万円、父母各400万円、合計4000万円が認められたもの(東京地判平16.6.29)である。
5 弁護士の思考停止は厳禁
これも死亡慰謝料の場合と同じで、被害者の後遺障害等級のみを見て、機械的に、基準額しか請求できないと考えてはならない、ということである。