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交通事故 17 逸失利益⑧ 逸失利益と退職金(差額)

菊池捷男

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テーマ:交通事故

1 退職金も逸失利益の一部として認められる
最判昭43.8.27は、「死亡当時(筆者注:後遺症の症状固定時も同じことになる)、安定した収入を得ていた被害者において、生存していたならば将来昇給等による収入の増加を得たであろうことが、証拠に基づいて相当の確かさをもって推定できる場合には、右昇給等の回数、金額等を予測し得る範囲で控え目に見積もって、これを基礎として将来の得べかりし利益の収入額を算出することも許される」と、一般的な逸失利益の考え(昇給分を含む基礎年収を認める考え)を述べた後で、退職金についても、①会社の就業規則に基づき基本給に対する比率が定められていること、②基本給が将来の昇給を含めて推定により算出できること、③これら算定方法には客観性が認められること、により、事故による死亡当時22歳の男性につき、定年退職予定時における退職金から、中間利息を控除した金額を、逸失利益の一部として認めた。

2 退職金(又は退職金差額)が年収を基礎とした通常の逸失利益の他に認められる要件
① 勤務先の就業規則で、退職金の支給が約束されていること
② 退職金の算定基準が明確であり、退職金の算出が可能であること
③ 定年退職まで勤務する蓋然性があること(被害者が最終学歴卒業後から就職している等は有利な事情)
④ 退職金支給の蓋然性があること(大手の会社であることや、被害者が公務員であることは有利な事情)
⑤ 死亡又は後遺症と退職との間に因果関係が認められること
なお、退職金差額とは、定年時まで就職していた場合に支給される退職金額から、事故により退職した時に支給された退職金額の差額を言う。

3 退職金(又は退職金差額)を逸失利益の一部として認めた最近の裁判例
・東京地判平22.10.28は、死亡時31歳の最大手鉄道会社社員。退職時は29年後
・仙台地判平17.7.20は、死亡時29歳の銀行員(女性)。退職時まで31年
・大阪地判平17.3.25は、事故時42歳、症状固定時45歳の財団職員。退職時は20年後

なお、死亡による逸失利益の計算式には、生活費の控除項目があるが、死亡による逸失利益の別枠となる退職金については、生活費を控除しない裁判例が多い。
逸失利益と退職金、それに裁判例については、いわゆる赤い本2012年下巻15ページ以下に詳しい。


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菊池捷男(弁護士)

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