遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
事例①
施設に短期入居していた高齢者が食堂で車いすから転倒し受傷
事実
88歳で軽度認知症。杖なしでは安定して歩けないのに、自ら車いすから立ち上がろうとすることが多くはなかったが、これまでもあった。事故直前他の利用者と談笑していて立ち上がる気配なし。食堂には入居者が71名もいた。
施設の責任を否定
施設は、具体的に立ち上がる等転倒の危険がある状況を把握したときに適切な処置をとれば足りる。常時監視義務はない。車いすから立ち上がろうとして転倒することは予見できたが、その可能性は高度とはいえない。生命身体の危険について一般的には予見可能性があっても、直ちに結果回避のためのあらゆる手段をとらないといけないわけではない。一時的離席の際にシートベルトを着用させる義務もない。他の事務の合間に状態を監視しておれば足りる。本件では必要な監視はしていた(神戸地裁平14.10.2判決)。
事例② 医院でデイケアを受けていた高齢者が医院の送迎バスを降りた直後に転倒して骨折し、その後肺炎を起こして死亡
事実
78歳。貧血状態で体重も減少傾向にあった。道路が一部未舗装で足場の良い場所ではなかった。自力歩行が可能で簡単な話なら理解可能。送迎バスには介護士1名のみだった。
施設の責任を肯定
移動の際に常時介護士が目を離さずにいることが可能となるような態勢を取るべきであったのに、それを怠った。本人の死亡までの責任がある(東京地裁平15.23.20判決)。
事例③ 通所介護サービスを受けていた高齢者が静養室入り口の段差から転落し右大腿骨骨折。
事実
95歳。両膝関節変形性関節症のため歩行困難で転倒の危険があることを家族から聞いていた。視力障害があり、認知症であった。レクリエーション時や尿意を催したときなど自ら立ち上がって歩行を開始することが度々あった。本人は、静養室で寝ており事故直前の予兆は特になかった。介護士は本人に背を向けて座っていた。そのような中で、本人が寝起きして歩行を開始し、段差のために転倒した。
施設の責任を肯定
本人の動静と寝起きの際の状況を把握する義務があった。つまり、目を覚まして移動を開始したようなときは、すぐに気づいて対応できる状態で見守りをする義務があったのにそれを怠った福岡地裁平15.8.27判決)
事例④ 介護老人施設でデイサービスを受けていた高齢者が便所で転倒し受傷。
事実
杖を使って歩行していた。トイレの入り口から便器までは1.8m、横幅1.6m。壁に手すりがない。介護士の同行を拒否した。
施設の責任を肯定
杖を使って歩行していたのであるから、転倒することは予見できた。利用者から同行を拒絶されても、介護義務者は介護を受けない場合の危険性と介護の必要性を専門的見地から意を尽くして説明し、介護を受けるよう説得して歩行を介護する義務があった(横浜地裁平17.3.22判決)。