不動産 中間省略登記ができない理由
Q 競売で不動産を買い受けた者は、その年度にかかる固定資産税の日割精算額を負担しなくとも良いのか?
1地方税法
固定資産税(都市計画税も同じ)の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日になっています(地方税法359条)ので、地方税法上は、競売で不動産を取得した者が取得した日の属する年度の固定資産税を負担することはありません。不動産取得の日が4月1日より前であったときは、翌年度分の固定資産税の負担をすることもありません。
例えば、平成24年3月31日に競売で不動産を取得した場合、その日は平成23年度最後の日ですが、平成23年度の固定資産税は言うに及ばず、平成24年度の固定資産税も納付する義務はないのです。
2 固定資産税の性格と最高裁判所判決
固定資産税は固定資産の所有の事実に着目して課せられる財産税の性質を有するものとされています(金子宏「租税法(第11版)」508p)。
最高裁判所昭和47.1.25判決は、
「固定資産税は、土地、家屋および償却資産の資産価値に着目して課せられる物税であり、その負担者は、当該固定資産の所有者であることを原則とする。ただ、地方税法は、課税上の技術的考慮から、土地については土地登記簿または土地補充課税台帳に、家屋については建物登記簿または家屋補充課税台帳に、一定の時点に、所有者として登記または登録されている者を所有者として、その者に課税する方式を採用しているのである。したがつて、真実は土地、家屋の所有者でない者が、右登記簿または台帳に所有者として登記または登録されているために、同税の納税義務者として課税され、これを納付した場合においては、右土地、家屋の真の所有者は、これにより同税の課税を免れたことになり、所有者として登記または登録されている者に対する関係においては、不当に、右納付税額に相当する利得をえたものというべきである。そして、この理は、同種の性格を有する都市計画税についても同様である。」と判示し、名義上の所有者に課された納付した固定資産税について、真の所有者に対し、不当利得として返還請求をすることも認めました。
3 通常の売買契約の現場
通常の売買契約の場合は、売主と買主と間の合意で、買主が不動産を取得した日の翌日以降の期間に対応する固定資産税は買主が負担することを約し、買主が売買代金(残金)を支払う時に同時に固定資産税の日割り精算額を支払っているのが現状です。
4 では、競売の場合は?
固定資産税が財産税の性質を有するのであれば、競売によって不動産を喪失した者が、喪失した日の翌日以降も固定資産税を負担するのは法律上原因のない負担、一方競売による買受人が買受日の翌日以降それを負担しないのは法律上の原因のない利得とは言えないのか?つまり、競売によって不動産を喪った者から、競売による買受人に対し、買受人が不動産を取得した日の翌日以降固定資産税の日割り精算額を法律上の原因無くして利得したとして、不当利得返還請求ができないか?が問題になります。
5 裁判例
この問題について、東京高裁昭和41.7.28判決は、積極説に立ち、不当利得返還請求を認めましたが、大阪地方裁判所平成23.2.7判決は、消極説に立ち、不当利得にはならないと判示しました。
その間にあって折衷説ともいうべき、東京高裁平成13.7.31判決は、「不動産競売手続により不動産を取得した者が、その不動産について、取得日が4月1日から翌年1月1日までの間である場合にあっては、当該年度に係る固定資産税等相当額、取得日が1月2日から3月31日までの間である場合にあっては、当該年度及び翌年度に係る固定資産税等相当額を負担しないとしても、その不動産競売手続において上記固定資産税等相当額を買受人に負担させることを前提として不動産の評価がされ、最低売却価額が決定されたなどの特段の事情のない限り、上記固定資産税等相当額を不当に利得したということはできないというべきである。最高裁昭和47.2.25判決は、この観点から見た場合、事案を異にすることが明らかであるということができる。」と判示しています。この説は、「不動産競売手続において固定資産税等相当額を買受人に負担させることを前提として不動産の評価がされ」ている場合に限り、不当利得返還請求ができるという見解ですが、現実の不動産競売では、そのような不動産評価はされていませんので、結局のところ、消極説と変わらない結論になります。