不動産 中間省略登記ができない理由
1契約締結上の過失論
契約を結ぶ前の交渉の段階でも、両当事者には、信義誠実の原則が適用されます。
当事者がこれに反することをして、相手方に損害を与えた場合、それを賠償する義務が生じます。
これを「契約締結上の過失論」といいます。
2 マンションの分譲業者は、日照が十分に得られる等の環境の良さに惹かれてマンションを購入しようとする人に、どこまで責任を負うのか?
⑴ 売主が南隣接地にマンションの日照を遮る建物建築計画があることを知らなかった場合
東京地裁昭和49.1.25判決は、分譲マンションの一室を購入した人が、その直後、南隣接地に高層ビルが建てられたため日照を奪われ損害を蒙ったとして、分譲会社に損害賠償の請求をした事案です。
判決は、
①マンションの分譲業者は、マンションの購入を検討している顧客に対し、虚偽の説明をして、マンションを購入するような働きかけは許されない。
②しかし、購入希望者から、マンションの南側には将来高層建物が築造されるようなことはないかについての質問を受けた場合でも、南側隣接地が他人の所有である場合は、将来南隣接地にどのような構築物が築造され得るか、そして、その構築物が本件建物にいかなる影響を与えるかなどについて調査し、その結果を買受人側に誤りなく告知説明しなければならない信義則上の義務はないとして、売主の損害賠償義務を否定しました。
⑵ 南西の隣地には建物は建たないと積極的に虚偽の事実を告げた場合
東京地裁平成10.9.18判決は、売主である不動産業者と不動産仲介業者の従業員が、買主に対し、南西側隣接地に建物が建築される計画のあることを知りながら、「本件マンションの区分所有者の承諾がなければ隣接地に建物は建築することは出来ないので、本件マンションの日照は確保される。」と虚偽の説明をしていた事案で、両社の不法行為責任を認めただけでなく、買主が、そのマンションの日照が確保されることを売買契約の重要な要素としてマンションの売買契約を結んだのだから、売買契約の要素に錯誤があったとして売買契約を無効と判示しました。
そして、判決は、売主、仲介業者に対し、買主が支出した売買代金、諸費用、住宅ローン利息、弁護士費用、その件で買主が請求した請求額全額を損害賠償額と認めました。
⑶ 南隣接地の所有者から、将来マンションを建てる計画があるので、そのことを重要事項説明書に書いて、将来トラブルが起こらないようにして欲しいと申し出を受けていた場合
東京地裁平成11.2.25判決は、分譲会社甲社がマンションAの分譲を開始する前、南隣接地の所有者乙社から、南隣接地にも今後マンションを建てる計画があるが、将来乙社がマンションを建築する際、反対運動を起こされると困るので、そのことをマンションAの住戸を販売する際、重要事項説明書にそのことを書いて買主に説明して欲しい、と申し入れされていたのに、分譲業者甲社は、重要事項説明書にはそのことを書かず、かえって「将来南隣接地に高層建物が建てられても異議を言わない」旨を書いて買主に説明したという事案です。
判決は、売主は南隣接地にマンションの建築が予定されていることを知りながら買主に告知しなかった点で、重要事項説明義務違反の債務不履行があるとされ、日照が阻害された買主の損害賠償の請求を認めましたが、その損害の額は、マンション住戸の購入価格の2%と認定しました。
これは、前記重要事項説明書に「将来南隣接地に高層建物が建てられても異議を言わない」
と書かれ、買主もいずれ将来は南隣接地に高層建物が建てられることを容認していたこと等が理由です。
⑷ 南隣接地の所有者やその土地の置かれた位置などから、将来そこに中高層のマンションが建てられる可能性があることが予想できた場合
大阪地裁平成11.12.13判決は、マンション分譲会社が、南隣接地は大蔵省が物納によって所有権を取得した土地であることと、その土地が横浜駅から至近距離にあることを知っていたのだから、その土地はいずれ換金のため売却され、購入者が中高層マンションを建築する可能性は予想できたのだから、そのことを買主に告知する義務があったと認定しましたが、買主にも5割の過失があるとして、買主から手付金を違約金として没収されたことによる損害賠償の請求のうち半額の支払いを命じました。