遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー方式)
DCF法とは、将来のフリー・キャッシュ・フロー(=企業の事業活動によって得られた収入から事業活動維持のために必要な投資を差し引いた金額)を見積り、年次ごとに割引率を用いて求めた現在価値の総和を求め、当該現在価値に事業外資産を加算したうえで企業価値を算出し、負債の時価を減算して株式等価値を算出して株主が将来得られると期待できる利益(リターン)を算定する方法をいう、とされています。
2 東京地方裁判所平成20.3.14決定(東京高裁平成22.5.24決定はこれを支持)事案
これは、旧商法245条ノ2による、営業譲渡に反対した株主の、会社に対する、自己の保有する株式を「公正ナル価格」で買い取るべきことを請求したときの評価に関するもので、同決定は、株式の「公正ナル価格」は、反対株主の投下資本回収を保障するという観点から、継続企業としての価値の評価に相応しい評価方法も用いるべきだとして、収益方式の代表的手法であるDCF法を採用することが相当であるとしました。
3 株式の評価で考慮された点
⑴ 継続企業としての価値
⑵ 支配権の移動という観点からの評価の必要性
この件は、反対株主は持ち株比率が1%未満の極少数株主であるのに対し、支配株主の持ち株比率は82%にのぼるので、支配権の移動という観点から株式価格を評価する必要はないとされています。
4 配当還元方式を採用しなかった理由
同決定は、
a 配当還元方式とは、将来給付が予測される利益配当額を現在の価値に引き直して株式価値を算定する方法であり、同方式のなかには、当該企業で実際に行われている配当金額を用いる方法(実際配当還元法)、経営者の配当政策により配当額が左右されないよう一般に妥当とされる配当額を用いる方法(標準配当還元法)、企業が獲得した利益のうち配当に回されなかった内部留保額は再投資によって将来利益を生み、配当の増加を期待できるものとして評価する方法(ゴードンモデル法)などがある。
b 配当還元方式は、いずれの方式も企業のフローとしての配当に着目して企業の価値及び株式を評価する方式であって、継続企業の価値を評価する方法の1つである。しかし、実際配当還元法は、配当を継続的に行っている会社以外には適用が困難であり、損失を計上して配当できない会社や利益が計上されていても経営方針として配当を実施していない会社に適用することはできないという点に留意する必要がある。また、標準配当還元法は、妥当とされる配当額を求めることが困難であるという点に留意する必要がある。さらに、ゴードンモデル法は、計算式において特定の条件が成立することが必要で、かつ、企業は永久に同じ割合で成長するという前提で成り立っているモデルであるという点に留意する必要がある。
とした上で、
相手方(会社のこと)は、本件営業譲渡の当時、産業再生機構の支援を受けている事業再生途上の企業で、配当を行うことができる状況にはなかったこと、相手方について一般に妥当とされる配当額を求めることは困難であること、事業再生途上の企業は成長性や成長率が必ずしも明確とは言い難いことが認められる。そうだとすると、相手方の株式を算定するに当たって、実際配当還元法、標準配当還元法及びゴートンモデル法のいずれの方式も考慮することは相当ではなく、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。
以上によれば、相手方の株式を算定するに当たって、配当還元方式を考慮すべきであるとの相手方の主張は理由がなく、これを採用することができない。
と判示しています。