遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 譲渡制限株式の価格
譲渡制限株式の譲受人と会社が指定した買主間で、売買価格を決めることができないときは、裁判所が、その株式の価格を決定することになっています(会社法144条4項)。
2 株式評価の方式
株式の評価については、会社法144条3項に「株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない。」と規定されているだけで、評価方法が法定されているわけではないため、方式については諸説あり、統一した基準はありません。
一般に、株式の評価方法には、①配当還元方式、②純資産方式、③取引事例方式、④類似会社批准方式、⑤DCF法等があります。
3 配当還元方式を採用した1事例
⑴ 配当還元方式を選択した理由
大阪高等裁判所平成1年3月28日決定は、譲渡制限のある非上場会社の株式の評価について、「一般少数非支配株主が会社から受ける財産的利益は利益配当(特段の事情あるときは会社の純資産価値)のみであり、将来の利益配当に対する期待が一般株主にとっての投資対象と解される。したがって、少くとも会社の経営支配力を有しない(買主にとって)株式の評価は右将来の配当利益を株価決定の原則的要素となすべきものというべきである」と判示しています。
⑵ 会社の解体価値が下限値
ただ、同決定は、「他方、現在及び将来の配当金の決定が多数者の配当政策に偏ってなされるおそれがないこともなく、右配当利益により算出される株価が一株当りの会社資産の解体価値に満たないこともありうるので、多数者と少数者の利害を調整して公正を期するため、右解体価値に基づき算出される株式価格は株価の最低限を画する意義を有するというべく」と判示し、会社の解体価値を最下限値としました。
⑶ 解体価値の内容
同決定は、「純資産価額方式により会社を現時点で解体し個別に処分したと仮定したとき、一株に対し払戻されるであろう額で計算されるところ、この場合棚卸資産は少くとも簿価の5分の1ないし10分の1に、土地以外の有形固定資産は同簿価の5分の1以下に評価し直し、従業員退職者は金額控除すべきものとされている・・」と判示して、貸借対照表上の数字とは異なる数字になるとしています。