遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 遺言文言
⑴ 遺言者凸山太郎はその所有に係る次の家屋と借地権を自由に裁量処分することを相続人である妻凸山花子に委任する。
⑵ 遺言者凸山太郎が娘凸山桃子に貸付けてある貸付金は相続の時基礎控除で差引くこと。
2 問題
前記1の⑴と⑵の遺言は、いずれも趣旨が不明であるので無効とすべきか、遺言者の真意を探って一定の意味を探り、その探った意味の遺言として有効とみるべきか?
東京高裁平成9.11.12判決は、1⑴の遺言事項は、借地権と建物を妻凸山花子に相続させる趣旨のものであると解すべきである。また1⑵の遺言は、娘である凸山桃子に対する債権を凸山桃子に相続させる趣旨のものであると解すべきであると判示し、遺言を有効なものとしました。
3 有効とした根拠
前記高裁判決は、「被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については、遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものであるところ、遺言者は、各相続人との関係にあっては、その者と各相続人との身分関係及び生活関係、各相続人の現在及び将来の生活状況及び資力その他の経済関係、特定の不動産その他遺産についての特定の相続人のかかわりあいの関係等各般の事情を配慮して遺言をするのが通常であるから、遺言書が多数の条項からなる場合に、そのうちの特定の条項を解釈するに当たっては、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出し、その文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書全体の記載との関連において、右の各般の事情を総合考慮して、遺言者の真意を探究し、当該条項の趣旨を合理的に確定すべきものである。」ことを前提に、「遺言の基礎となった遺言者と各相続人との身分関係及び生活関係、各相続人の現在及び将来の生活状況及び資力その他の経済関係、特定の不動産その他遺産についての特定の相続人のかかわりあいの関係等各般の事情について」詳しく事実関係を調べた上で、前記の結論を導き出しています。
この裁判例は、遺言書に記載されていない事情を元に、推論を重ねて、遺言書の内容を明らかにした事例です。